プチ小説「名曲の名盤 ドヴォルザークの交響曲編」

「第9番「新世界より」は学校の下校音楽だったり、「遠き山に♫」の歌詞をつけて音楽の授業で歌ったり、この曲の第2楽章は小学生の頃から馴染みがありますね」
「わしも小さい頃からこのメロディが好きやった。ほんでー、笛やオルガンでひいてみたけど、やっぱり短いから物足りん。かといって第2楽章全部を再現するのは難しいというので、ジレンマに陥ったものや」
「他の楽章も含めて全部を聴いたのは大学生になってから、自分でレコードを買ってからだったと思います」
「アメリカの黒人、アメリカの原住民の音楽から主題を借りたのではなく、自分で作ったとドヴォルザークは言っとるようやが、わしは「新世界より」の名の通り、新大陸アメリカを発想させる音楽やと思うとる」
「定番はやはり、アメリカのオーケストラをブルーノ・ワルターが指揮した、ワルター指揮コロンビア交響楽団のものですか」
「わしも長年そう思っとったんやが、定番と呼ばれているのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルのグラモフォン盤みたいや」
「他のレコードはどうですか」
「チェコ出身の指揮者が母国以外のオーケストラを指揮したものやチェコやスロヴァキア出身の指揮者が自国のオーケストラを指揮したものが多数あって、どれも祖国の英雄ドヴォルザークへの尊敬の念と愛国心が感じられる熱い演奏だが、ワルターやカラヤンほどの高い水準のレコードとはなっていない。まずワルターかカラヤンのどちらかのレコードを購入してから、好きなアーティストのレコードを購入すればよいと思う」
「ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィルやヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル、それからズデニェク・コシュラー、ヴァーツラフ・ターリッヒ、ヴァーツラフ・スメターチェク、カレル・アンチェルなどなど、一度は「新世界より」のレコードを聴いてみたいと思っています」
「ほんま、わしもターリッヒの「新世界より」は一度聴いてみたい。でも1949年のモノラル録音やからな...。スメタナの「我が祖国」のレコードも名盤と言われているが、1954年録音や。チェコのスプラフォンレーベルは名盤がたくさんあるから、最新の技術で昔の名演をリアルな音に再現してくれへんかなと思うわ」
「ドヴォルザークの交響曲第1番から第6番の中にいいものがありますか」
「ずっと前に、イシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団が演奏した第1番の「ズロニツェの鐘」をラージデッカで購入できたんで、期待しとったんやが、わからんかった。荒々しい気がしたし、心にゆとりがないとドヴォルザークの初期の交響曲の鑑賞は難しいのかな」
「ドヴォルザークは若い頃、祖国の人々のために作曲をしていたのですが、交響曲第9番、チェロ協奏曲、弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」は世界の誰でもが理解できるユニヴァーサルな音楽を意識したと言われています。第6番までの交響曲はドヴォルザークがユニヴァーサルな音楽を書こうという意識がなかったから、理解しにくいのかもしれませんね。第7番はジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団がよろしいですか」
「長年、そのレコードばっかり聴いていたんやが、カルロ・マリア・ジュリーニがロイヤル・フィルを指揮したレコードもええなと思うようになった。クーベリックやノイマンのレコードもいっぺん聴いてみたいなぁ」
「第8番はセル指揮クリーヴランド管弦楽団がよいと思うのですが、セルはこの曲を2回録音していますね」
「①columbia盤(1960年録音)と②EMI盤(1970年録音)がある。①は36分ほど、②は38分ほどで、②の方がゆったりとしたテンポや。②は巨匠セルの最晩年の演奏やし、クラシック・ファンやったら、一度は聴いておきたい名盤や」
「ジョージ・セルの名盤は他にもありますね」
「カサドシュ、オイストラフ、フルニエと共演した協奏曲のレコードもなかなかええけど、シューマンの交響曲第3番「ライン」とブラームスの交響曲第3番はさらにさらにすばらしい。ドヴォルザークの第8番と合わせて、セルのベスト・スリーやな」
「そうですね、その通りだと思います」