プチ小説「名曲の名盤 ウエストミンスター盤編」
「鼻田さんは、ウエストミンスター盤の蒐集に力を入れていた頃があったんですね」
「そうや、日本のレコード会社から、ウエストミンスター盤の室内楽の廉価盤が出ていて、クラリネットのレオポルド・ウラッハが主役のモーツァルトのクラリネット五重奏曲を購入したのが始まりやった。その後、ウラッハが主役ののいくつかのレコードを購入した。また、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のレコードもいくつか購入した。プレミアム盤に興味を持ち始めた頃だったので、ウラッハのモーツァルトのクラリネット五重奏曲がほしくてたまらなくなり、あちこちの中古レコード店で探したもんやった」
「見つかったのですか」
「らるごでジャケットがかなり傷んだのがあってすぐに購入した。盤質はまあまあだった。阪急東通り商店街のスマイルレコーズでジャケットがきれいなのを購入した」
「同じレコードを2枚も購入したのですか。ジャケットが違ったのですか」
「いいや、同じやった。とにかくクリアーな音でこの演奏を聴きたかった。スマイルレコーズはほとんどが1万円以上したけど、ようレコードを購入した。高いのでは、ペーター・リバールヴァイオリン独奏のヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番他を2万6千円購入したんやったが、20枚以上は購入したんやないかな。ほとんどがXWN盤やったけど、日本盤よりはるかに音が良かったし、当時はWL盤との違いが分からなかった(たいして変わらないと思っていた)ので、ウラッハやウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のレコードはほとんど購入した」
「どのくらい続いたのですか」
「4、5年続いたと記憶している。給料が出たら、スマイルレコーズで、2、3万円分のレコードを購入するというのが続いていたが、ある時、レコードの値段が高いことに気が付いた。ほんで、行かんようになった。新宿のディスクユニオンで同じウエストミンスター盤が5分の1の値段で売っとった。最初は信じられへんかったけど」
「ジャケットの傷み具合、盤質とかが違うんじゃないですか。たまたまそれだけが安かったとか」
「そうかもしれんけど、2万円で、4、5枚質の良い外国盤レコードが購入できるんやったら、そっちを選んだ方がええなと思うて、スマイルレコーズには行かんようになった。それでもスマイルレコーズでは数十万円は使ったと思うよ。らるごよりようさん中古レコードを購入したと思うわ。それからは、専ら中古レコードは新宿のディスクユニオンで購入しとる。軍資金も少のうなったしな」
「ウエストミンスター盤はどんなのをお持ちですか」
「ウラッハやったら、モーツァルトのクラリネット五重奏曲、クラリネット協奏曲、ベートーヴェンの七重奏曲、シューベルトの八重奏曲、ブラームスのクラリネット五重奏曲、クラリネット・ソナタ、それからウィーン・フィル木管グループのメンバーと一緒にレコーディングしたモーツァルトのアンサンブルもだいたい購入したわ」
「ぼくも、セレナード第11番、第12番「ナハトムジーク」は大好きですよ」
「それからウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のレコードは、モーツァルトの室内楽がええかな。弦楽四重奏曲第15番、第16番、第19番なんかがええよ。そうそう、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第10番「ハープ」やハイドンの弦楽四重奏曲第77番「皇帝」と第78番「日の出」もええ演奏やわ」
「バリリ四重奏団もいいのがありますね」
「モーツァルトの弦楽四重奏曲第20番と第21番はまあまあやった。一番ええのは、ウィリアム・ヒューブナーと一緒にレコーディングしたモーツァルトの弦楽五重奏曲第3番と第4番やな。まさに天上の音楽やわ。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲がええということやから、日本盤で第7番「ラズモフスキー第1番」を持っていて、これはええ演奏やけど、第12番はあんまりええと思わんかった」
「シューベルトのピアノ五重奏曲はピアノがパウル・バドゥラ=スコダでウィーン・コンツェルトハウス四重奏団もバリリ四重奏団も録音していますね」
「どっちもええけど、やっぱりウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の方が好きやな。最近、両方が1枚のCDで出ているのを知って、購入したけど、やっぱり、ウエストミンスター盤はアナログレコードをオルトフォンのカートリッジで聴くんがええんとちゃう。わしはオルトフォンのカートリッジが買えんようになって最近は安いMMカートリッジで我慢しとるけど、もう一遍オルトフォンSPUクラシックGで再生して聴きたいなあ」
「そうですよね。装置も良くないと充分楽しめないですよね」