プチ小説「名曲の名盤 EMI盤編」

「EMI盤は国によって呼び名が変わったりします。アメリカではAngel盤、ODEON盤、フランスではPATHE MARCONI盤とかLA VOIX SON MAITRE盤と呼ばれ、東西冷戦の昔にはELECTROLA盤がありました。それから名レコーディング・プロデューサー ウォルター・レッグ氏は自分の妻のエリザベート・シュワルツコップや名指揮者のオットー・クレンペラー指揮だけでなく、たくさんの名録音を残しています。最初にこの辺りのことをお話しておいて、EMI盤の中で最も優れたプレミアム盤ASD盤についていろいろ話していただけたらと思います」
「わしは最初、シュワルツコップがシューベルトのリート(歌曲)は推薦盤やし、多くのオペラのレコードで主役をしているので、ソプラノ歌手で一番実力があるのかなと思うとったんやが、例えば、シューベルトの歌曲やったら、クリスタ・ルートヴィヒやエリー・アメリンクの方がええし、モーツァルトのオペラにようけ出とるけんど、ファースト・チョイスではない。ええのは、R.シュトラウスの「ばらの騎士」(カラヤン指揮)とレハールの「メリー・ウィドウ」(アッカーマン指揮)やろ」
「クレンペラー指揮のレコードはどうですか」
「クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏を初めて聴いたのは、FMラジオでチャイコフスキーの悲愴交響曲やった。そのちょっと前に録音した、ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のブラームス交響曲第1番とともに何度も聴いた。暗い曲やけど、何か知らんが力が湧いて来たんや。「悲愴」と標題が付いてて、最後は静かに終わってしまうけど、第2楽章は癒しの音楽やと思うし、第3楽章は行進曲やから元気が出るわ」
「クレンペラーは他にどんなレコードを持っておられます」
「ASD盤で言うたら、ブルックナーの交響曲第9番やな。これはクレンペラー最後の録音で、音程がおかしいとかテンポがゆっくり過ぎると言われるけど、わしには申し分のない素晴らしいレコードやと思うとる。それからベートーヴェンの交響曲第2番、ブラームスのドイツ・レクイエムも名演奏やわ。そやけどベートーヴェンの荘厳ミサ曲、マーラーの交響曲第9番はどこがええのかようわからんかった」
「鼻田さんは確かジョン・バルビローリのファンだったですよね」
「そうやなあ、シベリウスの交響曲はアンソニー・コリンズの方が好きなんやけど、第2番だけはやっぱり、バルビローリ指揮ハレ管弦楽団のがええわ。それより、バルビローリは、ディーリアスがええわ。管弦楽曲集のレコードと「アパラチア」はクラシック音楽ファン必聴のレコードやと思うわ」
「バルビローリはチェリストのジャクリーヌ・デュ・プレの伴奏をしていますね」
「エルガーのチェロ協奏曲やけど、これもほんま素晴らしいわ」
「イギリスの名指揮者と言えば、エードリアン・ボールトがいますね」
「ロンドン・フィルとの組曲「惑星」は永遠の名盤やわ。ボールトは「惑星」を十八番にしていて、最後のレコードは5回目の録音で、1978年に録音しとる」
「ネヴィル・マリナー指揮ロスアンジェルス室内管弦楽団のレスピーギもいいですね」
「マリナーはほとんどのレコードをPHILIPS社から出しとるけど、レスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリアはオーケストラが違うんでEMI社から、チャイコフスキーとドヴォルザークの弦楽セレナーデはアカデミー室内管弦楽団やけどデッカ社からレコードを出しとる。リュートのための古風な舞曲とアリアはアンタル・ドラティ指揮フィルハーモニア・フンガリカの方がええわ」
「イツァーク・パールマンがいくつかオーケストラと共演した、つまり協奏曲のレコードがありますね」
「沢山あるけど、メンデルスゾーン、ブルッフの第1番、ブルッフのスコットランド幻想曲が好きやな。室内楽やったら、フランクのヴァイオリン・ソナタがええよ」
「パールマンの室内楽や独奏、それから鼻田さんが好きなジェルバース・ド=ペイエなどは次回にしましょう」
「そうしましょう」