プチ小説「名曲の名盤 EMI盤編その2」

「前回は、EMIレコードのオーケストラ曲についてお話いただきましたが、今回は室内楽曲や独奏曲についてご意見をいただきたいと思います」
「この前、パールマンの話が途中で終わったから、続きを話してええか」
「どうぞ、レコードのこと以外にも話したいことがあるんでしょう」
「そうなんや、ここは船場弘章名義の話が多くなるんやが、余り気にせんと聞いてな。まずわしが、パールマンさんの演奏を聴いたのは、今から43年前、NHK教育テレビでやった。その時はクライスラーの曲ばかり、サミュエル・サンダースの伴奏で演奏しとった。東京文化会館でのライブ演奏やなかったかと思う」
「随分昔のことですが、よく覚えておられますね」
「そら、長い付き合いの初めの出会いやからな。パールマンの演奏が素晴らしいと思ったわしは、2枚組のクライスラーのアルバムを購入して、何度も何度も聴いた。「ロンドンデリー・エア」という一生の付き合いになる名曲もこのアルバムに入っとった。今でもこれを聴くと行く当てがなかった浪人時代のことを思い出して、目頭が熱くなる。次に購入したんが、アシュケナージとの共演でレコーディングしたフランクのヴァイオリン・ソナタやった。これもよう聴いた。ベートーヴェンの「春」「クロイツェル」聴いたけど、これはダヴィッド・オイストラフの方が良かった。アシュケナージとは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ3曲をレコーディングしていて、アナログレコードやったら2枚になるのに、CDやったら1枚でお買い得やった」
「でもアナログレコードの方が音はいいでしょう」
「パールマンはその後、グラモフォンレコードに移籍していろいろレコードを入れるけど、その頃わしは、オイストラフ、ハイフェッツ、シェリング、グリュミオーなんかのプレミアム盤購入に力を入れ取った。それでもパールマンのクライスラーやフランクはよう聴いた。そうそう。パガニーニの24の奇想曲(カプリース)もよう聴いたわ」
「他にありますか」
「船場はんは、LPレコードコンサートでそのパールマンさんの特集を一昨年(2019年)12月に行って以来、LPレコードコンサートを行っていない。コロナ禍で開催されていないが、来年こそはと船場はんは思っている。船場はんは、LPレコードコンサートをライフワークと考えているから、行きかえりの電車賃を工面して日帰りでLPレコードコンサートを開催して、何とか100回まではやりたいと言っていた」
「あと何回ですか」
「71回までやっているから、あと29回だ。1年に4回行っているから7年余りなんだ。名曲喫茶ヴィオロンのマスターも今年は大丈夫ですよと言われていたそうだ」
「パールマンさんのことはこのくらいにして、次はジェルヴァース・ドゥ・ペイエですか」
「そう、わしは、ウエストミンスター盤のウラッハのファンやが、1950年代でモノラル録音やし、もっとええ音でクラリネットを聴けんかなと思っとった。そんな時、大阪の中古レコード店で、ドゥ・ペイエのブラームスのクラリネット・ソナタ第1番と第2番の日本盤を購入した。音もなかなか良くて、よう聴いた。ほんで、モーツァルトやブラームスのクラリネット五重奏曲、モーツァルトのケーゲルシュタット・トリオなんかを購入した」
「ケーゲルシュタット・トリオは、クラリネット、ヴィオラ、ピアノで演奏され、船場さんの小説『こんにちは、ディケンズ先生』第4巻では、この曲のタイトルが頻繁に出てきます相当船場さんはこの曲がお好きなようですね」
「『こんにちは、ディケンズ先生』第4巻の表紙絵もそれをイメージして描いていただくよう小澤一雄先生にお願いしたらしいよ」
「船場さんは、『こんにちは、ディケンズ先生』第3巻と第4巻を出版して、さあこれからという時に、コロナ禍がやってきて、本の宣伝も充分できない、LPレコードコンサートができない、クラリネットのレッスンも受けられない、ライカM9で夜景の撮影などのために遠方に出掛けられないとかで八方塞がりという感じですね」
「船場はんは今62才だから、せいぜいいろいろできるのは10年余りだろう。いつまでもこのままで行くかわからない。それは船場はんが決めることだ。ところでわしは、他にEMIのプレミアム盤を持っていて、これがなかなかいいレコードなんだ」
「それは何でしょう」
「「ジャクリーヌ・デュ・プレ リサイタル」というレコードで、ジェラルド・ムーアのピアノ伴奏の他、ハープ、オルガン、ギター伴奏で魅力的な小品を演奏している。わしの好きな、パラディスのシシリエンヌも入っとるしな」
「じゃあ、これからクリスマス会を開いて、船場さんも呼んで三人で一緒に聴きましょうか」
「そうしましょう」