プチ小説「年末にレコード棚を片付けながら」

福居は毎年12月30日と31日に大掃除をした後、午後10時30分に京都の5つの神社参拝のために出掛けるのだが、今年は30日の午後から母親の住居を掃除することになり、12月26日の日曜日に前もって年末の掃除をすることにした。
<一昨年の晦日までは弟夫婦がすべてやってくれていたが、いつまでも手伝わないわけに行かないし...>
午前中は、家全体に掃除機をかけ、いつもより丁寧に風呂掃除、トイレ掃除を行った後、流しとコンロの清掃を行った。また鏡、パソコン、テレビを丁寧にふき取る作業もした。
<これだけしておけば、大晦日の夕方までに片付けと拭き掃除、窓の清掃くらいだからなんとかなるだろう。それから今年はレコードとCDの棚の整理も考えていたから、午後からすることにしよう>
福居は、43年前からアナログレコードのコレクターになり、700枚ほどあった。CDはそれから10年ほどして購入し始めたが、最近はCDを購入することが多くて、CDも500枚近くあった。引っ越しの時などにかなりの数を中古レコード店に引き取ってもらったが、今でもレコードとCD合わせて、1000枚以上あった。
<前の引っ越しの時に、縦182センチ、横142センチ、奥行44センチ、3列4段のレコード棚を購入して、向かって右上から下に下りて行って最初の3つの棚は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、右側の一番下とその隣がロマン派、左は上から、国民学派チャイコフスキー、ドヴォルザーク、シベリウスなど、2つ目はマーラー、ブルックナー、R.シュトラウスなど、その下に小曲集のレコードが置かれてある。セット物が無造作に置かれている棚、ただの物置きになっている棚もある。絶対聞かないセット物を段ボールに詰め込んで、物置きになっている1つの棚をレコードが置けるようにしたいと思うんだが、作業を始めると時間が掛るんだろうな。他のところに、バッハ専用の棚がひとつとジャズ専用の棚が2つ、フォーク、ポップス、ムードミュージック、ワールドミュージック何でもありの棚もあるんだが、ここまでは手が回らないだろう>
福居が作業を始めて見ると、予想した通り思うように進まなかった。レコードを取り出してジャケットを見るといちいち昔の思い出が蘇ってくるからだった。
<一時、阪急東通り商店街のスマイルレコーズに通って、ウエストミンスター盤を数多購入した。今、モーツァルトだけを数えてみたが、23枚もある。管楽器8本(クラリネット2,ホルン2、オーボエ2、ファゴット2)のセレナード第11番と第12番は同じのが2つあるし、クラリネット五重奏曲も2つある。そんな無駄遣いもしたけど、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の4人で演奏する「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は何度聴いても素晴らしい。バリリ四重奏団とヒューブナーで演奏した弦楽五重奏曲第3番と第5番を聴いて、名曲喫茶ライオンの奥さんが感動していたのも懐かしい思い出だな>
他には、ウラッハとウィーン・フィルの管楽器奏者が共演した、ディヴェルティメントのレコードも3枚あった。
<ディヴェルティメントは楽器編成が凝っていて、それだけで興味がそそられる。クラリネット2本とファゴット1本というのも楽しいけど、クラリネット、ファゴット、ホルン1本ずつというのも魅力的だ。ディヴェルティメント第8番と第12番から第14番は、オーボエ、ファゴット、ホルン2本ずつで演奏されるけどどんな合奏なんだろう。でも究極はセレナード第10番「グランパルティータ」なんだろうな。オーボエ四重奏曲のWL盤をニコライ堂近くの中古レコード店ハーモニーで購入したのは、1995年のことだった。思えば、ぼくがウエストミンスター好きになったのは、このレコードの素晴らしさのお陰かもしれない。オーボエのハンス・カメシュの他、ヴァイオリンがアントン・カンパー、ヴィオラがエーリッヒ・ヴァイス、チェロがフランツ・クヴァルダとウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のメンバーなんだ。どうせならモーツァルト晩年の秀作ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによるディヴェルティメントもウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のメンバーが録音してくれたらよかったのになあ。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は他に、弦楽五重奏曲第4番と第6番も録音していて、これも素晴らしい。弦楽四重奏曲のレコードもいくつかあるけど、何と言っても、ジャケットも素晴らしい、第15番と第19番のレコードだな>
福居は、他にも、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第10番「ハープ」と第12番、七重奏曲、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番、弦楽五重奏曲、ピアノ五重奏曲「ます」、八重奏曲、それからブラームスの弦楽六重奏曲を持っていた。
<ベートーヴェンの「ハープ」はウィーン・コンツェルトハウス四重奏団、シューベルトの弦楽五重奏曲と「ます」はウィーン・コンツェルトハウス四重奏団他の演奏だけど、どれも素晴らしい。弦楽五重奏曲は、WL盤とXWN盤の両方を持っていることに気付いた。ルチア・ポップのシューベルト歌曲集は、CDと合わせて、4枚持っているから、これくらいはましだろう>
福居はしばらくクラシックCDのカタログをこねくり回していたが、やっと落ち着きを取り戻して言った。
<次は、バリリ四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」とか、ウラッハ他のグリンカの悲愴三重奏曲他がいいな。でも元手がないから、CDだけ買って、アナログレコードはやめとくか。今ので充分だし。こうして昔購入したレコードを整理するのもいいもんだな>