プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 好きなドーナツ盤編」

わしが小学校低学年やった頃、ムード歌謡の全盛時代で、テレビの歌番組では演歌歌手や和声ポップス歌手やムード歌手がテレビで熱い男女の恋愛、愛憎、喪失を歌っとった。ほんでー、たまたま父親の親戚の家に行った時にその話をしたら、大分前に買うたドーナツ盤やったら、あげるよー ゆうてくれて、千昌夫「星影のワルツ」、美空ひばり「真っ赤な太陽」、ジャッキー・吉川とブルーコメッツの「ブルー・シャトウ」、いしだあゆみ「よこはまたそがれ」やなかった「ブルーライト・ヨコハマ」なんかをもろうたんやった。それからすぐに母親が、ドーナツ盤再生装置(赤い色したラジオ付き卓上型レコードプレーヤー)を買うてくれたんで、弟とわしは母親に、わしらもドーナツ盤を買ってほしいと言うたんやった。母親が、何でもこうたるよ。ええよーちゅーたんで、わしは黒澤明とロス・プリモスの「ラブユー東京」、弟は鶴岡正義と東京ロマンチカの「小樽の人よ」を買うてもろうたんやった。そやけどしばらくしてわしが、ロス・プリモスの「たそがれの銀座」がほしいと言うたときには、自分で買いと言われたんやった。それからは、母親がおとなの歌詞のムード歌謡を幼少の子に聞かすのはまずいけんど、子供がレコードを聞きたいという要求には応えなあかんと考えたんか、映画音楽やクラシック音楽のセット物の一部を購入してくれるようになった。そやからわしはそれからはドーナツ盤でムード歌謡を聞くことはなくなり、もっぱらテレビでいろんな歌を聞くようになったんやった。その後親戚の家ではフォークソングのレコードも聞かしてもらったけど、フォーク全盛時代はわしが中学生の頃やったんで、小遣いもないし、もっぱらラジオで流行のフォークソングを聞いたんやった。それでもいつか好きなフォークソングのドーナツ盤を手に入れたいと思っていた。金沢に「レコード・ジャングル」という中古レコード店があって、1990年頃にそこで4枚買うたんやが、「青年は荒野をめざす」(ザ・フォーク・クルセダーズ)「あの素晴らしい愛をもう一度」(加藤和彦と北山修)「風」(はしだのりひことシューベルツ)「花嫁」(はしだのりひことクライマックス)なんかがあった。10年ほど前に大阪中央郵便局に用事があって用を済ませて梅田の地下街を歩いてたら、「DISC.JJ」という中古レコード店があって、そこでムード歌謡なんかを買うたんやった。「思案橋ブルース」(高橋勝とコロラティーノ)「逢わずに愛して」(内山田洋とクールファイブ)「真夜中のギター」(千賀かほる)「折鶴」(千葉紘子)「夕陽を追いかけて」(チューリップ)「異邦人」(久保田早紀)「どうぞこのまま」(丸山圭子)「迷い道」(渡辺真知子)「カモメが翔んだ日」(渡辺真知子)なんかをちょびっとずつ購入したんやが、たまに聞くとええもんや。船場は、クラシックやジャズのレコードのコレクターやが、あいつもドーナツ盤を持っとるんやろか。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、にいさん、私もドーナツ盤持ってますよ。半分はにいさんが言うてくれはりましたが、後は私が説明します。そうか、ほたら、頼むわ。私も社会人になってから、中古レコードを購入したというのがほとんどですが、中学生の頃、イージーリスニング・ファンだったので、ポール・モーリアの「涙のトッカータ」「エーゲ海の真珠」、フランク・プールセルの「アドロ」それからニニ・ロッソの「夜空のトランペット」を購入しました。そう言えば、船場はポール・モーリアのファンやったな。そうです、LPやCDもありますが、「蒼いノクターン」はドーナツ盤を購入しました。他に、楽団ものとしては、「真夜中のブルース」(ベルト・ケンプフェルト)「愛のテーマ」(ラヴ・アンリミテッド)「ハッスル」(ヴァン・マッコイとスタイリスティックス)「ワシントン広場の夜はふけて」(ヴィレッジ・ストンパーズ)「世界は日の出を待っている」(ベニー・グッドマン)「白い恋人たち」(フランシス・レイ)があります。イージーリスニングもあるんやろ。というか私が主に中学生の頃に楽しんだ音楽と言った方が正確だと思います。「ダニー・ボーイとマティルダ」(ハリー・べラフォンテ)「そよ風にのって」(マージョリー・ノエル)「ほおにかかる涙」(ボビー・ソロ)「ラ・ノヴィア」(アニタ・ブライアント)「愛の讃歌」(ブレンダ・リー)「グリーンフィールズ」(ブラザース・フォア)「サウンド・オブ・サイレンス」(サイモンとガーファンクル)「青い影」(プロコル・ハルム)「幸せの黄色いリボン」(ドーン)「レイン・レイン」(サイモン・バタフライ)「霧のカレリア」(ザ・スプートニクス)「哀愁のヨーロッパ」(サンタナ)「スキヤキ’81」(テイスト・オブ・ハニー)「スカイ・ハイ」(ジグソー)なんかがあります。折角、買うたんやからもっと聞いたらええんとちゃうか。でもね、にいさん、ものぐさな私が、33回転を45回転に変えて、一枚一枚レコードを取り出して、何枚か掛けるところって想像できます。そうやなー、CDは1時間前後、LPレコードなら20~30分はリラックスした姿勢で聞けるんやが、ドーナツ盤やったら、そんな余裕はなくて、レコード針が最後まで行くまで待ち構えているという感じやな。そうです、それだからドーナツ盤はラジオで聞くのがいいんですよ。そら、あんたの言うとおりやわ。