プチ小説「名曲の名盤 デッカ編」

「英デッカのプレミアム盤は、ラージデッカと呼ばれる、ラベルに大きくDECCAと書かれてあるものとスモールデッカと呼ばれる、ラベルにDECCAを四角で囲ったマークがあるものですが、米デッカのラベルにLondonと書かれたレコードもなかなかいい音がしますね」
「そやけど、米デッカのCSで始まるレコード番号のレコードよりも、英デッカのSXLで始まるのんの方がずっとええ音や。ビニールダイヤモンドなんて呼ばれるのも、こっちの方やし。ところで田中はんは、デッカのどんなんが好きなん」
「ぼくはアンセルメとメータですね。アンセルメは、もちろんリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」、フォーレ「ペレアスとメリザンド」他とファリャ「三角帽子」ですね。メータは、R.シュトラウス「ツァラトゥストラはかく語り」「アルプス交響曲」、ホルスト「惑星」なんかでしょうか」
「ショルティはどーなん」
「ベートーヴェン、ブルックナー、チャイコフスキーの交響曲がいいと言われますが、ウィーン・フィルを指揮したブルックナーの交響曲第7番くらいですね。それよりぼくはストコフスキーがイギリスの楽団を指揮したいくつかのレコードの方が好きですね。4チャンネルですから、SXLではありませんが」
「わしも、チャイコフスキーの交響曲第5番、リムスキー=コルサコフ「シェエラザード」とワーグナー管弦楽曲集なんか大好きやでぇ」
「デッカはヴァイオリン独奏で素晴らしいレコードがありますね」
「そうや、何と言っても、ザ・グローリー・オブ・クレモナ クレモナの栄光やな。ルッジェーロ・リッチは他にもパガニーニの小品集もええ音や」
「パガニーニと言えば、24のカプリースもありますね。もう少し前の時代ではミッシャ・エルマンがいますね」
「エルマン・トーンと言われて、独特の音を奏でるんやが、DECCAでは、エルマン・リサイタルとエルマン・アンコール、グリーグのヴァイオリン・ソナタ第1番と第3番がええと思うけど、チャイコフスキーやベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はもうひとつやった。それより、ヴァンガードから出ているジュビリー・アルバムやクライスラー・フェヴァリッツの方が好きやな」
「若い頃のイツァーク・パールマンやウラディミール・アシュケナージはどうですか」
「ふたりが共演したレコードがいくつかあるけど、わしはフランクのヴァイオリン・ソナタとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」が好きやな。ブラームスのヴァイオリン・ソナタは3曲が1枚で聴けるから、レコードよりお得ですよと宣伝しとったが、内容はやっぱり、オイストラフの方が上やわ。パールマンがはいくつかオーケストラと共演しとって、わしはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とブルッフのスコットランド幻想曲が好きなんやけどどちらもEMI盤や」
「アシュケナージはどうですか」
「わしが一番好きなんは、シューマンの「クライスレリアーナ」と「フモレスケ」がカップリングされたレコードやな。他には、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番から第27番、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と第3番かな。そやけどこのあたりはデジタル録音やから、高級オーディオ装置で再生してもあまり変わらんような気がするわ」
「ピアノでは、鍵盤の獅子王と呼ばれる、バックハウスがいましたね」
「ピアノ・ソナタ第21番の「ワルトシュタイン」、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」がええと思うけど、やっぱり、わしはケンプ、グルダ、ブレンデルが弾くレコードの方が好きやな。ベートーヴェンは名演が多くて、どれを取ったらええかわからんわ」
「バックハウスがベートーヴェンのピアノ協奏曲で共演した、ハンス・シュミット=イッセルシュテットはどうですか」
「シュミット=イッセルシュテットのベートーヴェンの交響曲をいくつか聴いたけど、印象に残ったんはウィーン・フィルの弦がええ音するなぁだけやった。標準的な演奏やから、珍しいもん喰いのわしには物足らんかったのかもしらん」
「クナッパーツブッシュがいくつか名盤を残していますがどうですか」
「友人から、ブルックナーの交響曲第5番がええよと言われたんやが、そのよさがわからんかった第8盤も同じや」
「残念だな。そうだ、船場さんが大好きな、ペーター・マーク指揮ロンドン交響楽団のメンデルスゾーン序曲「フィンガルの洞窟」と交響曲第3番「スコットランド」はどうですか」
「SXL盤は5万円はするというから、ホンマ、高嶺の花や。わしはCS盤を持っとるけど、これもなかなかええ音やで。演奏はほんましっとりしていて、心に沁みるわ」
「最後にトゥリオ・セラフィンはどうですか」
「プッチーニの「蝶々夫人」と「ラ・ボエーム」をローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団を指揮して入れとるが、わしは、「蝶々夫人」は聴かん。ほんでも「ラ・ボエーム」はよう聴くでぇぇぇ。ほやけどなあ、ミラノ・スカラ座管弦楽団と比べたら、ちょっと物足らんなぁ。グラモフォンではミラノ・スカラ座管弦楽団を指揮して、ヴェルディ「トロヴァトーレ」を入れとって、これが、ものごっついええレコードやから、「ラ・ボエーム」もミラノ・スカラ座管弦楽団を指揮してくれたら良かったのにと思うんやが、どうしようもないわな」
「そうですね、そういう契約になっていたんでしょうね」