プチ小説「名曲の名盤 グラモフォン盤編」

「グラモフォンのプレミアム盤というと ジャケットの上部に Deutsche Grammophon Gesellschaft となっていて、レコードラベルにチューリップの意匠がこらしてあるのが、そうですよね」
「そう Gesellschaft がついているか、そうでないかで大違いや。そやけどな Gesellschaft と書かれてあるのにチューリップの意匠がこらしていないのもある。それから Gesellschaft のSTEREO のところが黄色やなくて、赤色やと、赤ステと呼ばれてさらに希少で高価なプレミアム盤となる。船場はんは、ケンプのレコードの赤ステを3枚持っているようやな」
「Gesellschaftのあるなしは、いつ頃からでしょうか」
「1960年代の前半まで、Gesellschaft が付いていたり、チューリップラベルのレコードを見るんやが、もちろんそれは一部で、それやからこそプレミアム盤なんやが、デッカのSXL、EMIのASDのようにレコード番号だけではわからん」
「Gesellschaftやチューリップ・ラベルはそうでないものより音はいいですか」
「もちろんそうなんやが、EMIやデッカのように格が違うということはないなぁ。ちょびっと音がええ気がする、てな感じやな」
「では次に演奏家ですが、グラモフォンは専属のアーティストがたくさんいますね」
「オーケストラでは、カラヤン指揮ベルリン・フィル、ベーム指揮ウィーン・フィル、バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(ニューヨーク・フィルはコロンビア・レーベル)、アバド指揮ウィーン・フィル他、ピアノでは、ケンプ、ポリーニ、アルへリッチ、グルダ、ベネデッティ・ミケランジェリ、ヴァイオリンでは、シェリング、ミルシテイン、ムター、チェロのフルニエなんかが、たくさんのレコーディングをしとるが、わしは、EMIやデッカの方が好きやな」
「それはなぜでしょう」
「さっきも言うたように、グラモフォンは音質に自信があるのか、1960年代後半からはプレミアム盤を出さんようになった。しかも1980年近くなるとほんまに厚みがないレコードを発売するようになった。一見して、ええ音のレコードとは思えん。そんな感じで、1960年代後半からはプレミアム盤より、偉大なアーティストによる演奏をよりたくさんの人にそこそこの音で聞かせるという感じになった」
「でもそれなりの装置があれば、いい音で聞けるんじゃないんですか」
「それはそうやろけど、わしはSXLやASDに憧れを感じるけど、Deutsche Grammophon だけでは心が動かん。ケンプのレコードはようけ購入したけど、ポリーニのレコードはぺらっとした音やから、あんまり聴きたいと思わへんねん」
「となると名盤となるとケンプですか」
「そうやねー、ケンプは、シューベルト、ブラームス、シューマンも入れとるけど、やっぱり、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとピアノ協奏曲それからモーツァルトのピアノ協奏曲第22番と第23番がええんとちゃう」
「ベートーヴェンはどれがいいですか」
「断トツでええのが、ピアノ協奏曲第4番やね。三大ソナタ特に「熱情」はホンマ素晴らしい。船場はんは、此間、「テンペスト」と「告別」もものごっつうええ演奏やでちゅーとったなぁ」
「カラヤン、ベーム、アバドなんかはどうですか」
「船場はんは最近、カラヤン・ファンになってしきりにレコードを買い漁っているけど、これはカラヤンでないとというのは、グラモフォン盤では、オペラのプッチーニ「トスカ」くらいやちゅーとった。EMIやったら、モーツァルト後期交響曲がある。デッカやったら、ヴェルディ「ドン・カルロ」、プッチーニ「ボエーム」、ムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」という究極の名盤がある」
「ベームやアバドはどうでしょう」
「船場君は、最近、ベーム指揮ウィーン・フィルのブラームス交響曲全集を購入したんやが、これが普通のCDプレーヤーで再生できず、演奏も音もよくなかったんでがっかりしとる。ベームのベートーヴェン交響曲第6番「田園」を褒めていたこともあるけど、未だにベームの名盤に出会っていない。アバドはウィーン・フィルを指揮したマーラー交響曲第3番があって、これが素晴らしい出来や。他にも、モーツァルトの交響曲第40番と第41番、ブラームスの交響曲全集、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」もええんやけど、もっとええ音がしたら、よかったのに。デッカで録音したら良かったのに言うとる」
「そうかもしれませんね。ぼくが好きなカラヤン指揮のリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」も、EMIかデッカで入れてほしかったです」