プチ小説「名曲の名盤 PHILIPS盤編」

「フィリップス・レーベルの有名アーティストはどんな人がいますか」
「わしはやっぱり、アルフレート・ブレンデルやな。最初に聴いたのも、ブレンデルが演奏するシューベルトの「さすらい人幻想曲」やったし」
「最初は、ライヴ演奏で聴かれたんですね」
「そう、午後9時からFM大阪で日本で開催されたクラシック音楽のコンサートのライヴを放送しとったんやが、その放送で、ブレンデルがヤマハのピアノで「さすらい人幻想曲」を演奏するというのがあった。この無茶苦茶演奏が難しい曲をライヴでミスなく演奏できるブレンデルのテクニックはすごいなぁと思うたもんやった。ブレンデルは、シューベルトのピアノ・ソナタだけやなく、ピアノ五重奏曲「ます」もレコードを出しとった」
「ベートーヴェンやモーツァルトもたくさんレコーディングしています」
「そう、ベートーヴェンはピアノ・ソナタとピアノ協奏曲の全曲を録音しとるし、モーツァルトもピアノ協奏曲は全曲録音しとる。残念ながら、ピアノ・ソナタは全曲入れとらんようやが、管楽器との五重奏曲はベートーヴェンとモーツァルト両方入ったCDがある」
「ロマン派の曲もたくさんレコーディングしていますね」
「そうや、ショパンはポロネーズの一部を入れただけやけど、シューマン、リスト、ブラームスの曲はたくさんレコーディングしとる。メンデルスゾーンやドビュッシー、ラヴェルなどのフランスの作曲家の曲、チャイコフスキー、ラフマニノフなどのロシアの作曲家の曲は録音しとらんが、とにかく物凄い数のレコーディングをしとる」
「伴奏の録音もいくつかありますね」
「デートリッヒ・フィッシャー=ディースカウと「冬の旅」「白鳥の歌」をはじめたくさんのシューベルトの歌曲を録音しとる。息子でチェリストのエイドリアンとベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集を録音しとるが、これはDECCAレーベルや」
「その中で、鼻田さんお薦めのレコードをいくつか上げてください」
「これはブレンデルが一番ええというのはなかなかないんやが、シューベルトは他のピアニストより秀でている。ピアノソナタ第20番D959、8つの即興曲なんかはぴか一やわ。個人的に好きなんは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」、アンダンテ・ファヴォリが入ったレコード、モーツァルトのピアノ・ソナタ第8番と第14番のレコード、モーツァルトのピアノ協奏曲第18番が入ったレコードとかかな」
「他のアーティスト、まず指揮者はどうですか」
「その前に、ワーグナーの歌劇「タンホイザー」のヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団他のレコードは、ある意味、一番優れたレコードとして、取り上げたらええんとちゃう。歌手陣も、ヴィントガッセン、シリアがええしな」
「そうですね、クナッパーツブッシュの「パルジファル」はよくわかりませんが、こちらは、序曲、コーラス、独唱のどれもすばらしいですね」
「ほんでー、指揮者やったら、ネヴィル・マリナー、コリン・デイヴィスとエリアフ・インバルかな。マリナーはブレンデルとモーツァルトのピアノ協奏曲を入れ取るけど、わしが好きなんは、モーツァルトの管楽器の方の協奏交響曲やな。コリン・デイヴィスはやっぱり、アルテュール・グリュミオーとのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲かな。インバルはマーラーの交響曲を全曲録音しとるけど、わしが好きなんは、シュタルケル、シェリング、アラウと共演したベートーヴェンのトリプル・コンチェルト(三重協奏曲)やわ」
「ぼくは浪人時代に、イタリア四重奏団のシューベルト弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」にはまって、毎日聴いていたことがあります」
「わしもやでぇ、イタリア四重奏団は、ハイドンの弦楽四重奏曲第77番「皇帝」と同第78番「日の出」もものごっつい名演なんや。でもベートーヴェンはいまいちかな」
「ヴァイオリンでは、グリュミオーとシェリング、ピアノでは、ハスキルとヘブラーがいますね」
「グリュミオーはモーツァルトのヴァイオリン協奏曲もええけど、わしはハスキルと共演したモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集が好きやな。ハスキルは、イゴール・マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団と共演したモーツァルトのピアノ協奏曲第20番と第24番があって、CDを持っとるけど、アナログレコードもSACDも聴いてみたいわ」
「ハスキルは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番でもイゴール・マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団と共演していて、これも名演と言われています。一方ヘブラーは、シェリングとモーツァルトのヴァイオリン・ソナタで共演していますが、どうですか」
「グリュミオーとハスキルのは、1枚がステレオで、もうひとつはモノラルや。シェリングとヘブラーは全部ステレオやから、ええんとちゃう。わしがヘブラーですぐに思い浮かぶのは、名曲喫茶ライオンの1階の柱にヘブラーの写真が掲示されとることなんやけど、ヘブラーはライオンに行ったことがあるんやろか」
「さあ、どうでしょう。ヘブラーはモーツァルトのソナタや協奏曲でいい演奏をしているのがあります。それよりシェリングはフィリップスにたくさんのレコードを録音しています。でも一番の名演は、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータでこれはグラモフォンから出ています」
「最後に一言いわせてー」
「どうぞ、ご遠慮なく」
「わしは、エリー・アメリンクの歌声が好きやねん。シューベルトもモーツァルトもええよ。ほんま可憐な華やわ。モーツァルトのモテット「踊れ、喜べ、汝幸いな魂よ」をいっぺん聴いてな―」