プチ小説「名曲の名盤 RCA盤編」

「鼻田さんは、クラシック音楽に興味を持った最初の頃はRCAの廉価盤を集めておられたそうですね」
「そうやねん、一番最初に感動したんが、ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のブラームス交響曲第1番やった。ほんでー、近くのレコード屋さん(阪急豊津駅近くの豊津ファミリーの中にあるレコード屋さんで名前は覚えとらん)に行ったら、ミュンシュ指揮のブラームスの交響曲第1番があったんで、すぐに買うて帰った。ほやけど、帰って聴いてみたら、どう考えても演奏時間が5分ほど短い。何でやろと帯のところを見たら、パリ管弦楽団やのうて、ボストン交響楽団となっとった。間違って購入したことには違いないんやが、初心者のわしに、ミュンシュは2つの教訓を与えてくれた」
「それは何ですか」
「ひとつは、クラシックの曲は伸縮自在で、50分近くの曲が45分くらいに短くできるということ、つまり解釈の仕方で好きなように演奏出来て、それが指揮者の腕の見せ所となること。もうひとつは、レコード会社の判断で、楽章の真ん中でも真っ二つにできること。後にミュンシュ指揮パリ管弦楽団のベルリオーズ幻想交響曲のレコードをわくわくしながら聴いとると、第3楽章の真ん中(ちょっと前寄りやけど)でプチっと音が途切れた。プレーヤーを見るとA面の最後まで行っとった。仕方がないから、わしはB面でその続きを聴いたんやが、これは音質が落ちることを恐れて(音質を維持することを優先させて)、途切れることによって曲が台無しになることを考えへんかったからみたいなんや。フルトヴェングラー指揮のEMI盤の「英雄」のレコードも第2楽章の真ん中で真っ二つやから、EMIで編集作業をする人の中にデリカシーのない人がおるんかなと思うたもんやった」
「まあ、それはさておき、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のレコードの中には名盤がたくさんありますね」
「そうや、ライナー指揮シカゴ交響楽団やラインスドルフ指揮ボストン交響楽団のレコードもそのシリーズにあったけど、ミュンシュのような名盤はなかった。そのシリーズには、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のシューベルト交響曲第9番「ザ・グレイト」、フランクの交響曲、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」、ベルリオーズの幻想交響曲(こっちもパリ管と比べたら、5分ほど短い演奏時間や)、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」なんかは今でも色あせていない...そうや、モントゥー指揮サンフランシスコ交響楽団の幻想交響曲もRCAレコードから出とるけど、これも緊迫感が漲る白熱した演奏や。1950年のモノラル録音やが古さは感じない」
「RCAには、赤盤復刻という企画がありましたね」
「今でも、アメリータ・ガリ=クルチのレコードはよう聴くよ。ジブリのアニメ「火垂るの墓」で流れてたのは、ガリ=クルチが歌う「はにゅうの宿」や。わしはそれもええねんけど、ビショップの「見よ、やさしいひばりを」の方が好きやねん。歌手では、カルーソやシャリアピンもあるけど、わしはテープでしか持っとらん、ハイフェッツ、エルマン、カザルスなんかの弦楽器の名演奏家のレコードがほしいわ」
「ハイフェッツとルービンシュタインもRCAですよね」
「RCAはLiving Stereoという音の良いプレミアム盤を出していて、特にハイフェッツのヴァイオリン協奏曲は人気があったみたいや。わしは一時、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団と共演したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲がものごっつい熱い演奏で好きやったんやが、オイストラフが普通の速さで感動的な演奏するレコードを聴いてからは、こっちの方がリラックスして聴けるわちゅーて、あんまり聴かんようになったんやった。一時、リビングステレオのハイフェッツのブラームス、メンデルスゾーン、チャイコフスキーなんかをようきいていたんやが、オイストラフを聴くようになると疎遠になってしもうたわ。でもシベリウスは伴奏もええからたまに聴いてみたくなるわ」
「ルービンシュタインはどうですか」
「ルービンシュタインは、ショパンもベートーヴェンもロマン派もなんでもレコーディングしているからすごいわ。しかもどれも高度な技術で演奏しとる。わしが好きなのは、ショパンのノクターン集とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番やな」
「最後に冨田勲氏のモーグ・シンセサイザーによって編曲された音楽についてコメントをどうぞ」
「やっぱり、ホルストの「惑星」が一番やわ。腰を抜かしたのは、ムソルグスキーの「展覧会の絵」やったけど。冨田さんの音楽はところどころで、男性、女性の声を元にした合唱(合奏)が展開するところがあって、それがぬくもりを感じさせる。他にも、ドビュッシーの音楽、ストラヴィンスキーの「火の鳥」もあるけど、わしが3番目に好きなんは、パッヘルベル、ラフマニノフのヴォカリーズ、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」、アルビノーニのアダージョなどが聴ける「ドーン・コーラス」というアルバムなんや」
「そうですよね、そのレコードを聴くと、壮大な宇宙を想像させますよね」