プチ小説「名曲の名盤 ERATO盤編」
「エラートの代表的アーティストは、フルート奏者のジャン・ピエール・ランパルとジャン=フランソワ・パイヤールが指揮するパイヤール室内管弦楽団でしょうか」
「他にも、オルガンのマリー=クレール・アラン、クラリネットのジャック・ランスロ、ハープのリリー・ラスキーヌなんかも有名やね」
「でもエラートレコードの取り上げる作曲家が、バッハ、モーツァルト、フランスの作曲家の作品ばかりなので、ロマン派や国民学派の作曲家のファンのぼくとしては何か物足りない気がします」
「そう、実はエラートの名盤としてあげられるのは、ランパルとラスキーヌとパイヤールが共演したモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲くらいやから、どうして退屈せんように最後までもたそかなと思う。ほんでー、フランス人になんでフルートの名演奏家が多いのかちゅーのに今から言及してみようかと思うんや」
「フランス人は口の形がよいので、フルートを吹くのに向いているとかですか」
「そう、その最初が、マルセル・モイーズという人で、この人はSPレコード時代に活躍した人や」
「大体、何年頃ですか」
「多分、1930年前後やと思う。船場はんは、この人のフルートとハープのための協奏曲のSP盤を持っとったみたいやけど、手放したみたいや」
「なぜでしょう」
「やっぱり30分ほどの曲やから、6面3枚のレコードとなる。楽章の途中で途切れるし、何度もレコードをセットせんとあかんし、めんどくさがりの船場はんには合わんかったんとちゃうんかな」
「モイーズのお弟子さんにオーレル・ニコレがいますね」
「フランス人やなくて、スイス人なんやけど、リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団とたくさん共演しとる。バッハの管弦楽組曲と音楽の捧げものは名盤と言われとる。ニコレと同じ頃に活躍したスイス人にもう一人ペーター=ルーカス・グラーフがおって、わしはこの人のモーツアルトのフルート四重奏曲をよく聴くんやが、知っとったか」
「ぼくは、モーツァルトのフルート四重奏曲は古楽器のレーベル、アクサン(ACCENT)から出ている、フルートがバルトルド・クイケンのしか持っていません。ランパルのがほしいなと思っています」
「そうそう、そのランパルさんとラスキーヌさんのフルートとハープのための協奏曲は名盤で、聴きごたえがあるんやけど、田中君はどこが好きかな」
「この名盤の先にも後にも、優れたものがレコーディングされていないのですから、永遠の名盤と言えると思いますが、ぼくはカデンツァのところが好きですね。オーケストラの伴奏がなくなって、ふたつの楽器だけで掛け合いをするところ。すべての楽章で楽しめるんですから、素晴らしいです。でも、一部カットされている、レコードやCDがあるようです。フランス人のフルート奏者でもう一人ぼくの好きな人がいて、マクサンス・ラリューという人なんですが、知っておられますか」
「ヴィヴァルディの「忠実な羊飼い」というフルート曲集のCDを持っとるよ」
「ぼくは、ドップラーの「ハンガリー田園狂詩曲」他の小品集を持っていて、以前よく聴きました。最近、「オンブラ・マイ・フ」「「アルルの女」のメヌエット」、「グノーのアヴェ・マリア」「フォーレのシシリエンヌ」「精霊の踊り」「亜麻色の髪の乙女」「小舟にて」「G線上のアリア」なんかの小品が録音されているCDを購入してよく聴いています」
「「ハンガリー田園狂詩曲」言うたら、タンタンタララ、タンタンタララちゅーやつやろ」
「そうです、タンタンタララ、タンタン麺食べたいというやつです」
「まあ、おもろいこと言うのはそのくらいにして、次行こか。パイヤール室内管弦楽団の名盤というとどうなるかな」
「ぼくがパイヤールのことを知ったのは、FM番組のテーマ曲に使われていた。パッヘルベルのカノンを聴いたからで、7分ほどの曲に魅了されて、最初に購入したレコードはヴィヴァルディの四季でした。それからバッハの管弦楽組曲全曲とブランデンブルク協奏曲全曲のそれぞれ2枚組レコードを購入したのですが、今一つだなと思って、興味がなくなりました。それから大分経って、モーツァルトの管弦楽曲をフランス盤で聴く機会があり、音がとてもよかったので、3枚購入しました。初期のディヴェルティメント、13管楽器のためのセレナーデ、ディヴェルティメント第17番ですが、これらはしばしば聴きます。やさしーい、肩の凝らない演奏ですから」
「まあ、フランスの演奏家にドイツ人やオーストリア人のような演奏を求めるのはお門違いやわ。フランス人はフランス人らしい演奏をしたらええと思うねんけど、そうなるとベートーヴェンの交響曲第6番「田園」やブルックナーの交響曲第7番で見せ場になる、ひとつの流れとなるおおらかで美しい弦楽合奏みたいなんは我慢せんとあかんのかなと思うんや」
「そうなのかもしれませんが、それぞれの個性を大切にすることは全体のレベルアップに繋がると思います。他に何かありますか」
「1年ほど前に、ミュンシュ指揮パリ管弦楽団が演奏するブラームスの交響曲第1番のSACDを探しとったら、なんとエラートからHQCDが出とった。思わず、買ってしもうたんやけど、アナログ盤やSACDほど音が良くないんで、買わん方がよかったんかなと思うてる。エラートのラベルにシルバーロゴがあるとか、プレミアム盤のレコード番号があるっちゅーことはないみたいやから、エラートはんにええ音を期待するのは無理があるんかもしれん」