プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 わしもクラシック好きなんやで編」
わしは30才を過ぎるまでは外国の文化にはほとんど興味がなかったんで、映画も音楽も小説も国産のものに限っていた。映画で言うたら時代劇とチャンバラ映画、音楽は歌謡曲とフォークソング、小説は歴史小説と国産のSF小説が好きやった。そやけど35才になった日に、これではあかんと思うて、「未完成交響楽」のDVDとサンソン・フランソワのショパンのノクターン集のCDとディケンズの『大いなる遺産』の文庫本を買うたんやった。どれもほんまに良かった。それでわしはしばらく、外国の音楽映画のDVDの名作を買い集めたり、フランソワのショパンのCDを揃えたり、イギリス文学の名作を何冊か読んだもんやった。音楽と小説は長くは続かんかったけど、「未完成交響楽」の印象が鮮烈やったんで、あんな何とも言えん感動ちゅーか、諦観ちゅーか、まあ次は頑張ろかちゅーか、そんなやるせない気持ちが暫くは残る映画を求めたんやった。やっぱり音楽映画がええと思うて、その次にわしが見た映画は、ヒロインの父親がモミジ・マンジューやのうてアドルフ・マンジューで名指揮者レオポルド・ストコフスキーがヒロインの願いを聴き入れて一肌脱ぐちゅー「オーケストラの少女」やった。これはストコフスキーが良かった。よう似たのんに、ハイフェッツが出て来て凄い演奏をするらしい「彼らに音楽を」という映画があるんやけど、ハイフェッツのヴァイオリンが盗まれてそれから物語が展開していくとあらすじを読んでチョットなー、やめとこかなという感じなんや。ジョージ・ガーシュインの生涯を描いた「アメリカ交響楽」も興味を持って観たんやけど悲劇的結末だけが頭に残って余韻というのが残らんかった。ほやから今度はジャズの名演奏家を扱ったんがええのかなと思うて、「グレン・ミラー物語」「ベニー・グッドマン物語」「五つの銅貨」を立て続けに観たんやった。やっぱり心に残ったんは、「グレン・ミラー物語」のラスト・シーンなんやけど、何回か見ているうちに、「五つの銅貨」の主人公レッド・ニコルズの家族に対する深い愛情が感じられて、心地よい余韻が残ったから、こういう映画もええなあと思ったもんやった。ニコルズのCDが出とるから、いっぺん聴いてみたいもんや。その後またクラシックの作曲家の映画を見たけど、「未完成交響楽」や「五つの銅貨」のように心に沁みる名画はない。偉大な音楽家を取り上げるんやから、マーラーやシューマンのように誤解を持たれる可能性がある映画は絶対作ったらあかんと思うんやけど、言いすぎやろか。わしは映画鑑賞だけで、クラシック音楽やイギリス文学には縁がなかったけど、最近、フランソワのラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「マ・メール・ロワ」(こっちは連弾やけど)をYOUTUBEで聴いて、フランソワって、ショパンだけやないんやと思うたんやった。船場はそのあたりのことを知っとったか、知らへんのか聴いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、にいさん、フランソワはラヴェルもええなぁということですね。まあ、そうやねんけど、他にもお前の独り歩きやなくて独りよがりのコメントもほしいわ。そうですかでは、まず外国の音楽はクラシックに限るというのではなく、ジャズ、ムードミュージック、イージーリスニング、ポップス、シャンソン、カントリー&ブルーグラスなどいろいろ聴きますが、いろいろなメロディが絡み合い、盛り上がって行って、至福へと導いてくれるのは、名指揮者がこしらえ上げる交響曲、管弦楽曲、協奏曲ではないでしょうか。2、3分の身近な曲でも素晴らしい曲はたくさんありますが、余韻が残る、幸福感が続くものを求めるなら、クラシック音楽をいろいろ聴いてみるのがいいのだと思います。ふーん、ほんなら、フランソワのピアノはあかんのか。そんなことはありません。私がいいと思うのはいくつかの美しいメロディを聴いて、それが形を変えて繰り返し演奏されて、感動を高めていき、音楽をたっぷり楽しんで終わるという音楽がええと思うんです。そら、あんたが好きなもんというだけで、一節太郎の浪曲子守唄や城卓矢の骨まで愛してが一番好きやちゅーおじさんは世の中にいくらでもおるんや。そうですか、気を付けます。では次に文学ですが、今のにいさんのお話に絡めて話しますと、何も長編小説だけが読みごたえがある小説とちゃうでえということになります。最近、私は、佐々木邦のユーモア小説を読んでいるのですが、どれも2段100ページから200ページですが、どれも楽しい小説です。でもやはり、「戦争と平和」(トルストイ)、「レ・ミゼラブル」(ユゴー)、「デイヴィッド・コパフィールド」(ディケンズ)、「ダルタニャン物語」(大デュマ)を読んだ時ほどの感動の余韻はありません。そうなんかもしれんけど、文筆家の人が一所懸命頭を絞って書き上げた作品も立派な芸術なんやから、おろそかにしては罰が当たるんやで。わかりました、気を付けます。それでは最後に映画ですが、こちらは10分や20分で終わる映画はないので、最後まで鑑賞すれば充分に心に残り、感動の余韻をしばらく持ち続けることが出来ます。しかしながら、私は最近映画を見ていないので、評価の対象がありません。そうか、ほんなら、「彼らに音楽を」を見て感想を聞かして。わかりました、さっそく鑑賞してみます。