プチ小説「名曲の名盤 春近し春に因んだ名盤」

「新型コロナで厳しい状況が続いていますが、気持ちだけは明るく前向きに過ごして行きたいですね」
「そうそう、立春も近いし立春を過ぎればそこいらじゅうで春の足音が聞こえてくると思うんよ」
「へえー、それはどんな音ですか」
「それはやなー、ストラヴィンスキーの「春の祭典」で鳴り響く、ティンパニーのように派手なやつかもしれんし、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」のような可憐な乙女の足音のようなものかもしれんし、はたまたシューベルトの歌曲「春の想い(信仰)」のような到来を待ち望むひとりで寂しく暮らしとる男のようなものかは、わしはようわからん」
「がくっ」
「そやけど春がやって来るのは確かやし、こういう時は、春に因んだ曲を聴いて、明るい気持ちになって、🌸があちこちに咲き乱れる日がやって来るのを待っているのがええと思うんや」
「鼻田さんが言われる🌸は、植物園なんかで見られる花のことですか」
「いや、わしの場合は、いろいろあるで。梅の花は梅林やし、桜の花は公園や河原でよく見られる。暖かい日にぽかぽかした陽光を浴びながら転寝をしてたら夢の中の花園できれいな女性がわしに声を掛けるとか...それはないか」
「まあ、想像力を逞しくしていれば、毎日が楽しくなると思います。レコードではどんなのがよろしいでしょう」
「「春の祭典」はコリン・デイヴィス盤がええと昔から言われとるが、わしはまだ聴いとらん。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」は、やっぱり、オイストラフかパールマンやな。シューベルトの「春の想い」は昔から聴いとるルートヴィッヒがええなぁ」
「他にも、シューマンの交響曲第1番「春」がありますね」
「わしは昔から、コンヴィチュニーのレコードが好きやから、そればっかり聴いとるけど、サヴァリッシュやセルもええかもしれん」
「モーツァルトの弦楽四重奏曲の中に「春」の愛称で知られたのがありますね」
「それは第14番やな。わしは、アルバン・ベルク四重奏団のを持っとるけど、あんまり録音されとらんみたいや。モーツァルトの歌曲に「春のあこがれ」ちゅーのがあるけど、知っとったか」
「ええ、でもそのメロディを使ったピアノ協奏曲の方がよく知られていますね」
「そうやねん、ピアノ協奏曲第27番の最後の楽章はこの「春のあこがれ」のメロディが使われてて、天国的な調べなんやで」
「他にありますか」
「そら、ヴィヴァルディの四季があるでしょう。第1曲(協奏曲第1番)が「春」でしょう」
「演奏はやはり、イ・ムジチですか」
「そうやけど、イ・ムジチは四季を何回か録音しとるから、注意が必要や。一番有名なんは、フェリックス・アーヨが独奏の最初のステレオ録音(1959年)で、それがベストやと思うでぇぇぇ」
「このイ・ムジチの四季は多くの人に聴かれたレコードと言われています。きっと演奏や音色に魅力があるからだと思います。イ・ムジチの四季をじっくり味わいながら、ほんとの春よ早くやって来いと祈るばかりですね」
「そうやな、早くみんなに春がやってきたら、ええねんけどな」