プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 日常生活は小説の題材になるか編」
わしが幼少の頃はSFアニメの全盛時代で、「スーパージェッター」「宇宙エース」「宇宙少年ソラン」「鉄腕アトム」「遊星仮面」「遊星少年パピイ」なんかを楽しんで見とった。そのほとんとが正義の主人公が悪人を懲らしめるというパターンの活劇で、小さいながらも悪人が懲らしめられることによる爽快感(カタルシス)に病みつきになってたんやないかと思う。そやからそれを継承した時代劇の「水戸黄門」は見ていておもろかったけど、主役のご老公はんだけやなくて、助△さん、風車の弥七、由美かおるやなくてお銀、うっかり八兵衛なんかに分散して活躍するという展開で、ご老公自身が剣の達人やったり、3メートル位の高さの塀に後ろ向きで飛び乗ったり、入浴シーンがあったりするわけやなかったんで、刺激が少なかった。それでもいろんな人物が活躍したんで、シリーズとしては大成功で長寿番組になったんやった。また演じる俳優も、光圀はんが、東野英治郎、西村晃、佐野浅夫、里見浩太朗なんかがやっとって、助△さんも助さんは杉良太郎、里見浩太朗、あおい輝彦、格さんは横内正、大和田伸也、伊吹吾郎なんかが演じとったから、役者の魅力との相乗効果でその後の時代劇全盛時代の礎となったんやった。そんな刺激的で、勧善懲悪のテレビ番組ばっかり見とったから、恋愛ドラマや社会派ドラマというのはわかりにくくてほとんど見ることはなかった。勧善懲悪ものよりずっと内容が濃くて、ためになり、実用的でもあり、話の種にもなるんやが、当時わしは野生児やったんでこまこい感情は理解しようとせんかった。ほんま勿体ないことをしたもんや。そやから社会人になってからも、わしは主人公が悪いやつをやっつけるSF小説や時代小説ばかりを読んどった。船場は、『こんにちは、ディケンズ先生』をはじめほとんどの小説に悪人が出て来ないという、安心して読める小説を書いとるんやが、わしには物足らんのんや。ほんでから、あいつは未だに自分が体験したことを元にして小説を書いとるから、規模が小そうて、迫力があらへん。わしとしては、『デイヴィッド・コパフィールド』のユライア・ヒープや『オリヴァー・ツイスト』のバンブルや『骨董屋』のクウィルプのような悪人を登場させてほしいんやが、お人好しの船場は、そういうことは自分にはでけんちゅーとる。悪人を登場させることで、読者が物語の展開がどうなるんやとはらはらどきどきするんやから、田口計が演じる悪代官みたいな人を小説に登場させたら、小説が面白くなると思うんやが、あいつ、どう考えとるんやろ。聞いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ!はいはい、水戸黄門の主題歌は私も大好きなんです。タンタタタタンタタタ タンタタタタタタタタタ タンタタタタンタタタ タンタタタタタタイタタ 兄さん、何も頭を叩かんでもええやないですか。えーの、しょもないこと言うて、笑いを取ろうとする奴には。でも兄さんは私がそういう路線で、受けを狙いに行けというてはるのではないんですか。そら、ちゃう、チャウチャウ。ほらまた、兄さんはしょうもないこと言うて、笑いを取ろうとしはる。そういうダジャレは動画なんかでは有効ですけど、何度も読まれる。小説には私は不向きだと思います。SFアニメ、時代劇は面白い場面が連続していくという構成で、一つ一つが輝いていますが、それを繋げてみると一貫性がないことがあります。もちろんしっかりした脚本もたくさんありますが、中には登場人物の顔見世的なものもあります。小説を書くなら、しっかりした脚本、一貫した物語の中で好感が持てる登場人物を活躍させたいのです。それに悪役の人に感情を移入してリアリティを持たせるのは、本当に難しいのです。というのは私が悪人ではないからなんです。ほんまかー、お前もわしが見てへんところで、悪いことしてるんとちゃうん。兄さんがそんなこと言うたら私も多少は悪いこともしてるかなと思いますが、それはそれとして、小説を面白くするために悪い人を登場させる必要はないと思います。悪人の代わりに、ライバルを登場させるとか、自分の欲求を叶えてくれる人間離れしたキャラクターを登場させるというのがあります。テレビでもSFアニメや時代劇で勧善懲悪ものがマンネリ化してきたので、新しい路線を考えようということで誕生したのが、スポ根ものだと思うんです。ライバルたちが技を磨き合って、つまり切磋琢磨して物語を盛り上げて行くという趣向のものです。直接対決はしますが、対決の後は大概はさわやかなスポーツマン同士の親交が深まるという感じで毎回終わるんです。いやいや、スポコンはそんな甘くないと思うで、星飛雄馬が打たれた時のあの悲惨な様子は。涙流して絶望して、もう野球なんかせんとこという感じや。船場はあんまりスポコンを見てへんのとちゃうか。それでももうひとつの人間離れしたキャラクターを登場させて主人公の願いを叶えるというのは、理解できるでしょう。それは、ドラえもんに代表されると思うんやが、ロボットを遠隔操作したり、自らがスーツを装着して敵と戦うというのも似てるところがあると思うね。そういう風に時代の流れに乗れば、たくさんの人の楽しみになると思うのですが、やっぱり私は地道に日常生活の場面の中で楽しい会話をさせて、それを楽しんでもらおうと思うんです。最近、読んでいる佐々木邦さんの小説もそんな手法です。彼はそういう構成の小説を15巻も書いておられるのです。そうか、まあ面白い会話で読者を楽しませることが出来たら、悪人が出る幕もないし際立った登場人物も背景もあんまり考えんでええから、書く方も読む方も会話に専念できるかもしれんなあ。ほたら、その路線でもええからどんどんどしどし小説を書くんやよ。はい、わかりました。(敬称略)