プチ小説「青春の光 100」

「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「田中君、前回予告したことをもう忘れてしまったのか。今回は100回目の掲載を祝って、いろんな人に登場してもらおうと言っていたのを」
「そう言えば、船場さんだけでなく、船場さんの著書『こんにちは、ディケンズ先生』に登場される、ディケンズ先生とピクウィック氏にも登場していただくことになっていましたね」
「そうなんだ。そこでわたしの考えなんだが、まず船場君に登場してもらって、近況を報告してもらい。それからディケンズ先生とピクウィック氏、お二方の登場という流れにしたいと思う。だが...」
「なんでしょう」
「最近、船場君の周りではあまりいいことがないようなので、そのことを自分で語り出すと辛い思いをするかもしれない。船場君が登場する前にわたしがさわりだけを話しておこう。では...『こんにちは、ディケンズ先生』の作者船場弘章は、40代半ばに短編小説を書き始めました。最初は短編小説を書いていましたが、もっと短くて読者に楽しんでいただける小説をと考え、一編がA5の用紙に収まるくらいの長さの短編小説「プチ小説」を40代の終わり頃から書くようになりました。船場君はもともとイギリス文学、なかんずくディケンズのファンだったため、小説の中にディケンズが登場して、自分の著作について語ったり、主人公の人生相談に乗ったりすれば面白いんではないかと考えて、主人公小川弘士の夢の中にディケンズ先生が登場するという『こんにちは、ディケンズ先生』というプチ小説をホームページに連載し始めました。1年ほど連載すると75話となり、一応物語としての体裁もでき読者に興味を持って読んでいただけると考えたので近代文藝社に原稿を送付し、Bタイプの自費出版で出版しました。第1巻が出版された頃から、田中君とわたしが宣伝隊となり、寝る間も惜しんで活発な活動を行いました。販売は惨敗でしたが、近代文藝社から出版された、第1巻と第2巻は、第1巻が117の大学図書館、190の公立図書館、第2巻が90の大学図書館、82の公立図書館に受け入れていただきました。その後縁あって、幻冬舎ルネッサンス新社から第1巻改訂版、第2巻改訂版、第3巻、第4巻を出版できましたが、第3巻、第4巻が2020年3月4日に出版されて船場君が、さー、頑張るぞーと言う少し前から、コロナ禍が拡大し始め、船場君は今...」
「そうです、大学図書館で受け入れがなされず、母校の大学でも受け入れされていない状況です。そんな状況では公立図書館の受け入れも儘なりません。船場さんは、本が売れなくても、自分の小説を全国の公立図書館に受け入れてもらうために全国を回ろうと考えていたのですが、寄贈した50の大学図書館のうち2つの大学図書館だけに受け入れてもらっている現状では、それができないと二の足を踏んでいます。第4巻で物語は一区切りですが、船場さんは続編の構想もあるので、いろんな活動のひとつの切っ掛けとなる大学図書館の受け入れが始まることを待ち望んでおられます。第1巻から登場されるディケンズ先生は最初からテンション高く張り切っておられますが、第3巻から登場されるピクウィック氏は本編とは違って、ディケンズ先生の助手として活躍されているので、こちらも楽しんで読んでいただけるかと思います。それでは、最初に船場さんに登場していただきましょう」
「橋本さん、田中さん、丁寧な紹介ありがとうございました」
「船場君は最近どうしているのかな。3ヶ月に一度は東京でLPレコードコンサートをしていたし、公立図書館に受け入れてもらうために北海道や九州まで出掛けていたし、年に2回は遠出をしていたけど、コロナ禍で出掛けられないだろう」
「そう、橋本さんが仰る通りで、今の楽しみは大波のはざまに京都の名曲喫茶柳月堂に行くことやスタジオでひとりクラリネットの練習することぐらいです。最近はコロナ禍以外にも世界情勢に不安なことが出てきましたが、ここではそのことは控えます」
「確かに最近の状況を考えると、自分で出版した本を是非読んでくださいと大きな声を出すことは憚るしかないという感じですね」
「もっと遡ると長編の小説が読まれる環境がなくなってきたということがある」
「昔は電車に乗れば、文庫本、雑誌、新聞なんかを開いている人が沢山いたけど、今は新聞と雑誌はまったくなくなり、本をわずかの人が読み、他はスマホを見ている」
「そうです、そんな状況だから、『こんにちは、ディケンズ先生』をたくさんの人に読んでいただくことは諦め、大学図書館や公立図書館に受け入れてもらい、将来、ディケンズに興味がある人の目に留まればと思っていたのですが、その望みも断たれたという感じですね」
「でも、ここに来ていただいた、ディケンズ先生とピクウィック氏は小説の中で主人公小川と愉快なやり取りをされているので、そこだけでも読んでもらいたい気がします。ディケンズ先生、どう思われます」
「わたしが、こうして世間の人にお話しする機会を与えてもらえたことを深く感謝いたします。もともと『こんにちは、ディケンズ先生』は作者の思い付きで始まったものでしたが、ディケンズ・フェロウシップの先生からお誘いが掛って、しかも多くの大学図書館に受け入れられて、わたしもこの小説をたくさんのイギリス文学ファンに読んでいただけることを願っていたのですが、今のところは八方塞です。何かトリガーができればと思いますが、とっかかりがなくまったく需要がない状況です。それでもわたしはいつまでも悪い状況が続くとは思っていません。暗い夜もいつかは明け、寒い冬もやがては明るい温かい日差しが射して温かくなります。その日が来る日を待ち望んでいるのです」
「ありがとうございます。ピクウィック氏からもお言葉をいただけないですか」
「先生がわたしが言いたいことをすべて言われたので、わたしからは作者を励ますくらいでしょうか。縁があって、『こんにちは、ディケンズ先生』に登場させてもらっていますが、もともとわたしは怒りっぽい初老の学者という感じなのですが、船場さんはわたしをユーモラスな愛らしい人物に描いてくれているのでもっと活躍したいと思うのですが、現状では致し方ありません。それでも先生と同じように苦しみの後には喜びが控えていると信じていますので、みなさん気を落とすことなくこれからも頑張って行きましょう」
「そうですね、みんなで協力して頑張りましょう」