プチ小説「新京阪橋を挟んでの熱いたたかい 間もなく竣工編」

福居とイニエスタ赤坂の熱きたたかいは、休止状態になっていた。というのも戦いの舞台となっている新京阪橋が、改修工事で一部通行禁止となっているからだった。ふたりが安威川河岸で秘術を尽くした死闘を繰り広げた後に終盤に入る前に新京阪橋を渡るのだが、しばらく前から改修工事のため阪急相川駅に向かって左側の歩行者通路が通れなくなり、イニエスタ赤坂氏は左側の車道を歩き福居は改修された幅広い歩行者通路(1メートル余りだったのが、3メートル程の幅になった)を歩くため、ふたりの戦いはお預けとなったのだった。それでも福居が安威川の土手を歩いているとしばしばイニエスタ氏が追い抜いたので、ここのところ福居は10連敗という状況だった。福居はそれを不快に思い、車道でイニエスタ氏を追い抜こうとしたが、中央分離帯なしの両側2車線の狭い道なので、追い抜くのが難しいだけでなく大きなトラックが横を通り過ぎる時にはカニ歩きをしなければならないほどだった。福居は思った。しばらく2倍の速さでカニ歩きができるように特訓しようか、いや、カニ歩きでは彼のスピードには追いつけない。今は我慢するしかないなと。そんなことがあって、福居は改修工事中はイニエスタ氏とのたたかいを自粛したのだった。

そんなある日福居とイニエスタ氏がいつも通る新京阪橋の阪急相川駅に向かって左側の車道で接触事故があり、工事が竣工するまでは警備員がそこを通らないように誘導することになった。翌日、福居が安威川の土手を歩いているとイニエスタ氏が追い抜いたので、福居は後を走って追いかけた。新京阪橋の手前で車道を歩こうとしたイニエスタ氏は警備員に行く手を阻まれ立ち止まっていた。運よく信号が青に変わったので、福居は信号を渡り阪急相川駅に向かって右側の新しくできた歩行者通路を歩き始めた。しばらくして振り返ると尚もイニエスタ氏は車道を歩こうとして警備員と揉み合いになってた。福居は性格が悪いのと10連敗から脱出できそうなので浮かれていたのとの両方で、イニエスタ氏の方に向きを変えて頭の上で両手を振った後に両腕を前方に出してvサインをしてイニエスタ氏を挑発した。イニエスタ氏は顔を真赤にさせて警備員を振り切り車道に入ろうとしたが、大きなトラックが通ったのでイニエスタ氏は諦めて横断歩道を渡って歩行者通路を歩き始めた。その頃に福居は相川駅まであと50メートルのところまで来ていたので、まったく追随を許さず改札口(ゴール)を通り抜けた。福居にとって久しぶりの勝利しかもノーヒットノーランの完勝のように思えたので、彼の目尻には熱いものが滲んでいた。

それからしばらく福居は車道を歩きたがるイニエスタ氏を押さえて、連勝を重ねていた。イニエスタ氏はその回転力のある足と腕による推進力で前を歩く人をごぼう抜きにしたが、横断歩道で立ち止まらないといけないとなるとその間に追いつかれ、さらに福居のように走る人がいると追い抜かれてしまうのだった。彼としては横断歩道に邪魔されずに阪急相川駅まで歩けるというのが、勝利の条件になっているのだった。このままでは、連敗が続いてへこんでしまうと思ったイニエスタ氏は、ある日福居に追いついたところで話し掛けた。
「オウ...オツカレサンデス」
「おお、あなたは...ライバルであるわたしに何か用ですか」
「サイキン、マケガコンドルカラナントカセントアカンナトオモッタンヤガ、ドウカンガエテモカチメガナイ」
「そんなことはないでしょう。サラブレッドのような脚力をお持ちなんですから」
「ソウナンヤケド、コノしちゅえーしょんハヨウナイワ。ソヤカラホコウシャツウロガデキルマデハショウブハオアズケヤ」
「そんなー、しばらくは勝てると思ったのに」
「ワキヤク、イヤツウコウニン1ノアンタハダマットリ。シュヤクハアンタヤノウテワシナンヤデ」
「そうですか、それならしばらくは我慢します」

それからしばらくして、阪急相川駅駅に向かって左側の歩行者通路が完成した。イニエスタ氏は横断歩道で待つことなく阪急相川駅まで一気に歩けるようになったので、もう福居は相手にならなかった。サラブレッドの脚で福居を追い抜くと、あっという間に50メートル先を歩いていた。
「うまうまと彼の話に乗らなかったら暫くは勝利の快感に酔えたのに...まあ、大体からして僕はたたかいが好きじゃないから」
そう言いながらも、福居はイニエスタ氏が隙を見せたら追い抜いてやろうと闘争心を再燃させてから家路についた。