プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ブルーグラスもええよ編」
わしが中学生の頃の娯楽の1つに、午後9時から始まる外国映画のテレビ放映というのがあった。当時は、日曜日に朝日、月曜日に毎日、水曜日に読売、金曜日に関西という感じでどのテレビ局も視聴者が喜ぶような映画を日本語吹き替えで提供しとった。どこのテレビ局の提供やったか忘れたけど、「ベン・ハー」「旅情」「荒野の七人」「荒野の用心棒」「ダーティハリー」「大脱走」「バニシング・ポイント」「明日に向かって撃て」「俺たちに明日はない」「イージーライダー」なんかをわしは目をテレビに釘付けにして見たもんやった。映画音楽では、エンニオ・モリコーネのメロディが秀逸やと思うんやが、いっぺん聴いて衝撃を受けて大好きになった曲としては、「俺たちに明日はない」で流れた、「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」やった。中学生のわしにとっては未知の楽器やったバンジョーが軽快なテンポで馴染みやすいメロディを奏で、フラットマンドリンが彩を添えるアップテンポな曲にまいってしもうた。ほんでー、いろいろ調べて、フラット&スクラッグスというグループがやっているということはわかったんやが、なかなかレコードを手に入れることはでけんかった。高校生になって、級友から近畿放送(現KBS京都)が深夜放送のおもろいのやってるでと聞いて、水、木の日本列島ズバリリクエストを聞いたんやが、高石ともやとナターシャセブンの放送はおもろかった。何回か聞いてたら、「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」が彼らのレパートリーやということを知って、バンジョーのパートを鮮やかに演奏する城田じゅんじさんに尊敬の念を抱いたもんやった。ブルーグラスって、ええやん、おもしろそうやなと思うたんはわしだけやのうてその音楽を聞いた人のほとんどがそうやったようで、ナターシャセブンだけでは収まらず、他のブルーグラスのバンド演奏を聞く、自分で演奏する、自分でグループを結成する、外国のレコードを聞くなど京都ではブルーグラスの文化が広まり、老いも若きもブルーグラスの音楽を求めるようになった。そやけどナターシャセブンが107ソングブックのレコードづくりと地方公演を始めるようになってから、いや正確に言うとズバリクでブルーグラスの演奏が聞かれなくなってから、核爆発がなくなった太陽のように京都のブルーグラスバンドの活躍が萎んでいった。もしそのままナターシャセブンのズバリクが続いていたら、次から次へとブルーグラスの演奏をする人が増えて、コピーばかりでなく京都ブルーグラスという音楽が生まれとったかも知らん。そういうわけでナターシャセブンがブルーグラスの曲をあまり演奏せんようになってからは、京都のブルーグラスは地味な活動だけになった。それでわしもしばらくはイージーリスニングやロックを聞いとったが、社会人になって10年ほどして久しぶりにブルーグラスを聴いてみたくなった。当時、レコードマップという中古レコード屋さんを紹介する本が出ていて、それを見ると四条河原町をちょっと下ったところにブルーグラス、カントリーのCD、レコードを扱う店があるというのを知った。その頃は坂庭さんも城田さんもナターシャセブンを脱退していた。それでしゃーないから、店主に「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」が聞けるレコードありますかと尋ねたんやった。店主は、CDやったら、2000円でありますけど、LPレコード(中古)は5000円です。それより「永遠の絆」というレコードの方がおもろいでっせと言わはった。店主によると、「永遠の絆」はニッティ・グリッティ・ダート・バンドがブルーグラスの曲をスタジオ録音したもので、ブルーブラスの伝説的な人物たちがゲスト出演しとる。カーターファミリーのメイベル・カーター、ドグ・ワトソン、アール・スクラッグスなんかも出てるから楽しいでっせと言わはった。ほんで素直なわしは、ほんなら買うて帰りますちゅーたんやった。その店ではあんまりナターシャセブンや伝説的な人物の話はしてもらえんかった。ROUNDERレーベルCDがたくさん陳列されとって、トニー・ライス、ベラ・フレック、アリソン・クラウスのCDやレコードを買うて帰ったもんやった。アリソン・クラウスは今でもブルーグラス界のベストシンガー(フィドルはいまいちやと思うんやが)なんで、その店の店主には先見の明があったと言えるやろ。船場は最近になって、アリソン・クラウスのCDやライヴのDVDを購入して聴いてみたけど、カーター姉妹やフラット&スクラッグスの方が落ち着いて聴けるちゅーとった。あいつ、ホントのところは、ブルーグラスはどれがええのかわからんちゅーとったけど、今どうしとるんやろか、訊いてみたろ。おーい、船場ーっ。おるかー。はいはい、にいさん、ほんま、ブルーグラスはクラシックみたいなガイドブックがないんでどないしたらええかようわかりませんわ。私もにいさんと同じで高校生の時にナターシャセブンのファンになってブルーグラスはよく聴きました。社会人になって、107ソングブックに出て来るニュー・ロスト・シティ・ランブラーズとかドグ・ワトソンのCDを聴いてみましたが、のめりこむことはありませんでした。ですが、最近になって、興味を持ったアーティストがいます。ほう、アリソン・クラウスか伝説的な人物のどっちや。伝説的な人物です。以前から名前は知っていたのですが、聴かなかった歌手がいるのです。ジャンバラヤで有名なハンク・ウィリアムスとちゃうんか。ハンク・ウィリアムスはギター一本でしみじみと歌うという感じで、以前聴いたことがあります。余裕があったらまた聴き直したいですが...今ぼくがじっくり聴ききたいのは、ビル・モンローです。YOUTUBEで演奏を見てええんとちゃうと思うたんです。一緒に演奏してるブルーグラス・ボーイズも上手そうですし。そうかコロナ禍であんまりええことないから、昔親しんだ音楽を振り返るのもええかもしれんな。