プチ小説「ゴールデンウィークはどうしよう」

福居はいつものように目覚めるとすぐにNHKラジオをつけたが、午前5時から番組が始まった番組の中でアナウンサーがピンクムーンの話をしていた。福居は一人で面白いことを考えて、そんな、あほなーと自分でツッコミを入れるのが好きなので、きっとピンクムーンはピンク色のチョコレートでコーティングされた煎餅のようだったのだろうとかイチゴ味のチーズケーキのようだったのだろうと思って、寝床でツッコミを入れてはニタニタしていた。しばらくして福居が目を開けると、まだ部屋の中が暗く時計を見ると午前5時5分だったので、部屋着に着替えて外に出てみることにした。
<確か、月の入りが午前5時20分だったから、まだ地平線の近くでピンク色の穏やかな光を放っている(太陽の光を反射している)かもしれない>
そう言って自宅を出て、西の方角を見ながら地平線近くまでが見えるところを探し歩いた。
<ここから5分程歩いたら小学校の校庭があるからそこだと西側の地平線近くも見えるだろう。でもそこに着く頃には、午前5時20分は過ぎて月は沈んでしまっているだろうな>
あたりは薄暗がりがあったのが濃い朝焼けに変わり、その朝焼けも強い光で薄らいでいた。
<最近は、午後6時を過ぎてもまだ明るいから、朝も5時を過ぎるとすぐに明るくなる。もう少し夜が続いて月の入りが遅かったら、ピンクムーンを鑑賞できたのになぁ>
目的地の小学校の校庭の東側に着くまで時間があったので、福居は今度のゴールデンウィークのことを考えた。
<コロナがあるから、東京とか泊りがけの遠出は諦めないといけない。それでも3連休何もしないのはもったいないなぁ。久しぶりに比良山に登ってみたいけど、最近は身体が鈍っているから翌日は筋肉痛でほとんど動けないしなー。それに比良山はこの時期一部区間が残雪で通行不能だったりする。3回頂上まで行くのを断念したことがあるけど、引き返すのはやだなぁ。堂満岳のシャクナゲは今が見頃だからゴールデンウィークの頃は散っているだろうし・・・・・・おお、あれはもしかしたら>
福居が校庭に入ってしばらく歩くと、倉庫の近くに白のTシャツGパン姿の男性がいた。よく見ると、職場の近くでよく見掛けたイニエスタ氏に似た男性だった。男性はウルトラマンのように胸を張っていた。
「おお、あなたは...」
「ソウ、アンタガオモッテイルトオリ、ユウガタニナンカイガタタカッタコトガアルオトモダチヤデ」
「お友達ですか、うれしいな。以前から訊きたかったんですが、あなたはスペインから技能実習でやってこられたとのことですが、ぼくの職場の近くにそのような場所はあるんでしょうか。またどんな技能を習われているのですか」
「エエシツモンヤネ。ジツハワタシハオオサカベンヲナラットルンヤ」
「へえ、スペインから大阪弁を習いに来られているんですか」
「チャウチャウ、スペイントイウノハウソヤ」
「ではどちらから」
「サッキアンタガ見テイタ月ヨリズット向コウノM78星雲ヨリモズット向コウノM29800星雲(リャクショウニッキュッパ星雲)カラココニキトル」
「M78星雲、ウルトラマン???ホンマですか」
「キキタイコトガアッタラ、キイタラエエガナ」
「M78星雲は架空の星雲と言われてますし、ウルトラマンも円谷プロが創造したものです。今の話はあなたの頭の中で創造したものではないのですか」
「アンタ、ヨウカンガエテミテチョウダイ。ニンゲンバナレシタ脚力、コレハワタシガニンゲンヤッタラセツメイガツカンヤロ」
「そうですか、昔、あなたのような人が万国びっくりショーに出演されていた気がします」
「ホタラ、アンタガココニクルトイウコトガフツーノニンゲンノワタシニワカルトオモウノン」
「それはですね、あなたがたまたま散歩でこちらまで足を伸ばされて一休みされていた時にバッタリと...」
「ナンデヤネン、ワタシガタカツキマデサンポニキテ、バッタリトアウヨウナコトガアルハズナイヤロ」
「それもそうですね。でもどうみてもあなたは身長が40メートルあるわけではありませんし、マッハ5で飛行するわけではありません。またお年も50才位で、ウルトラマンのように2万才ということもなさそうです」
「ソウカ、ホンナラ、ショウコミセタルワ。ホヤケド、コレデオシマイチューコトハナイカラ、アンシンシテ。ソウヤ、コレカラワタシノコトヲ、タニサントイッテクレタラウレシイネンケド」
「安心ですか???谷さんですか???」
そう言って、谷さんは、校庭の中央までゆっくり歩き、胸を張ってのぼり出した太陽を仰ぎ見ると、シャッという声を発して離陸した。谷さんが腕を前に持って行くまでには点になり10秒もしないうちに姿は見えなくなってしまった。福居は、しばらくはあんぐりと口を開けたまま、谷さんが飛び去った方を見ていたが、気を取り直すと、そうか、ちょっと変わった人だなと思っていたが、宇宙から来た人だったんだ。もしもの時に備えてゴールデンウィークは筋トレをしっかりしておこう。毎日10時間はしないとついていけないだろうなと独り言を言いながら帰宅した。