プチ小説「バラの花が咲く頃に」
「ねえねえ、お母さん、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」
「なあに、わたしでわかることかしら」
「そんなにむずかしいことじゃないわ。バラの花がいつ咲くかということなの」
「そうねえ、5月ゴールデンウィークが終わる頃から6月初めくらいじゃないかしら。それから秋も咲くけどこちらは10月くらいからかしら」
「わたし、アーチにバラの蔓が巻きついて小さめのピンクの花がたくさん咲いているのを見て、きれいだなと思ったの。今年も見たいなあ」
「そうね、バラは元々が美しい花でそれだけでも楽しめるけど、自然交配だけでなく、人工交配させたり、見せ方を工夫したりしてより美しくなっているわね。知子はピンクのバラが好きなの」
「ピンクのバラも好きだし、オレンジ色のバラも好きだわ。でも...」
「他に好きな花があるのね」
「サギソウって花、お母さん知ってる」
「本か、新聞で見たのね」
「そう、新聞で見たの。小さな写真でよくわからなかったけど、本当に白サギが飛んでいるようで一度見てみたいなあと思ったの」
「知子は小さな可憐な花が好きなのね。バラはどちらかというと賑やかな感じかな。いい香りもするし」
「わたし、サギソウを自分の目で見てみたいわ」
「東京のどこかで栽培しているみたいだけれど、関西ではなかなか手に入らないようよ。お母さんが若い頃に宇賀渓という鈴鹿山系にハイキングで出掛けた時に、お土産売り場で見掛けたことがあるわ。でもお花屋さんでは見たことはないわね」
「どうしたら、手に入るのかしら」
「そうねえ、知子が大きくなってから友だちと宇賀渓に出掛けるとか」
「京都府立植物園では見られないの」
「今まで、何度か行ったけど見たことないわね。一度尋ねてみようかな。そうだ、今バラが丁度花の盛りだから、見に行こうか」
「わー、どこの植物園なの、京都、長居それとも須磨離宮まで足を伸ばすのかな」
「よく知っているわね」
「みんな遠足で行ったっところよ。友だちと話ばっかりしていて、お花はあんまり見なかったかな」
「そう、じゃあ今度は家族で出掛けて、お花をじっくり見ようか」
「そうね、でも私、小さな可憐な花を30センチくらいのところで見たいわ」
「ふふふ、そうか豪華絢爛の花園でいい香りが漂っているというのより、可憐な人知れず咲いているような華奢な花をじっと見ているのが知子は好きなのね」
「そういうのが大好きなんだけど、植物園でそんな可憐な花がたくさん見られるかしら」
「欲を言えば切りがないけれど、サギソウに似た可憐な花がひとつかふたつくらいなら見つかるかもしれないわよ」
「そうよね、てんこもりなんてむりよね」
「ふふ、そんな言葉どこで覚えたの」