プチ小説「座談会「リアリティと興味の連鎖」について考える」
「こんにちは、「青春の光」で橋本さんの相手方をしている田中です。今日は船場さんから、リアリティを保つにはどうすればよいか。また物語の展開を面白くするためにどれくらいの虚構が許されるかということをわれわれで是非話し合ってほしいと言われたので、喧々諤々(侃々諤々ではありません)と意見を出し合っていただきたいと思います」
「いちびりさんも鼻田さんもいつものように賑やかにやりましょう。船場君の小説は自分の身の回りのことを扱うことが多い。『こんにちは、ディケンズ先生』の主人公小川弘士の場合も出身大学が同じだし、クラリネットを習ったり小説を書き始めたりしてそれに付随することを小説の中で展開している」
「でも、船場さんと違って妻と子供がいますし、会社勤めで係長になっていて新幹線で出張に行ったりしています。そこは人生でいいところがない著者と大違いです。それに実際のところ、この小説の主人公はディケンズ先生や小川の配偶者の秋子が主人公とも考えられます。小川の友人として、大川、相川、ベンジャミンがいますが、それぞれがとても個性的で興味深い人物です」
「個性的ちゅーたら、大川の配偶者のアユミは文武両道というか、ピアノもうまいし格闘技も達人ということやから、彼女の前では小川の影が薄い。そんな登場人物がおるから物語が面白おかしく展開していきよる」
「そうですね、リアリティというか現実に即した部分として小川の物語があって、その周りで個性豊かな登場人物とのからみで物語が展開していく。安心して物語に入って行けるという感じですね。ただ体験に即した物語が多いために物語の内容が似たり寄ったりで、読者が期待する冒険的なところが船場さんの小説には見当たらないと言えます」
「そやけど自分とまったく違う性格の登場人物というのが描けるんやろか。特にそれがヒーローやヒロインやとしたら、何か居心地の悪いものにならへんのやろか」
「と言いますと」
「主人公が大阪出身の大人しい男の子ということやったら、これは船場の幼少時代そのままやから何の苦労もなくスラスラと書けるやろけど、けど例えば東京の下町の女の子を書くとなるとこれはリアリティがあるないどころか、まったく知識なしでの人物描写ということになり失笑を買う小説なってしまうんとちゃうか」
「でも小説の舞台とか、主人公の性格は書き手が可能な範囲で書けばいいので、最初からそんな冒険を犯す必要はないと思います。リアリティというのは、その小説の内容に現実味があり、読者がすんなりと受け入れられるものという解釈がいいんじゃないでしょうか。小説は絵空事だと開き直って自由に与えられた原稿用紙に書き綴っていけばいいと言われるとかえって不安定な気がして、何か自分の痕跡を小説に残したいと思うんじゃないでしょうか。例えば今の時代は地球をぐるぐる回っている人工衛星からどこでも様子を伺えるようになりましたから、誰にも干渉されずにヒーローになることは難しいと思います。また科学が発達した時代ですから、よく調べもしないで科学的なことを書こうとすると恥を書くことになります。船場さんは、自分はずっとユーモア作家であり続けたいが、自分の小説を笑いものにされるのは避けたいと言われています」
「仮にヒーローが船場の分身であるか、そうでないかどちらにしても一応面白そうな主人公が登場する小説が書けそうになったとして、次に問題になるのは小説をどのように展開させるかなんやが、最近の読者は船場の書く小説のように説明が多くて物語の展開が遅かったら、もお読まんとこちゅーて途中でほられるのとちゃうやろか」
「そやけど次から次へと面白い話ができるわけではありませんから、船場さんには難しい注文かもしれません」
「ちゃうちゃう、興味が湧く話がそんなに必要ではなくて、究極1つでもええから早いところで読者に興味を持たせることが必要と思うか言うことや」
「鼻田さんは、どんな展開がいいと思われますか」
「そうやなー、最初、せいぜいはじめから千字以内のところやな、そこでその小説の興味深いところ、謎、主人公の苦悩、恋愛、対決なんかが提示されたら、読者には読みやすいやろな。それもあんまりくどい説明がなかったら、言うことなしや。ただそのためには冒頭のところで要点をまとめてしかも物語を展開していかんとあかん。それはとても手腕が必要なことやと思うわ」
「いつもの船場やったら、最初の何ページも使うてくどくど説明するところや」
「それをするのは止めた方がよいということですか」
「少なくとも、西洋文学の抜粋を入れたり、クラシック音楽の興味深いところを提示するのは、自己陶酔にすぎん。もうやめたらええ。もっと読者のために面白い話を、これおもろいでっせちゅーて、どんどんどしどし提示せなあかん。読者が最初のところで、こんな小説はしょうもないと思われたら、それでお終いと言うことをもうそろそろ認識せんとあかん。ためになる知識よりも興味深い話を展開させることを何より優先させんとあかん」
「うーん、厳しいですが、いろいろ忙しい中小説を読むために時間を作ってくれた読者に、ああ、読んでよかったと思ってもらうためには、最初にこれええんとちゃうと思ってもらって、興味を持って最後まで読んでもらうことが一番大事かもしれませんね」
「そうそれが船場の小説にはない。自分がサービス満点と思って、知識をひけらかしても、なんやこれで終わってしまう。それでは書けば書くだけ虚しい。船場にはそのことに早よ気付いてほしい」
「みなさんが言うことには一理あると思いますので、船場さんは参考になさって頑張って下さい」