プチ小説「ドヴォルザーク好きの方に(仮題)おまけ編」

松川は、引き続きコロナ禍に喘いでいた。目の前に大きな壁が立ちはだかり、自分の力ではその厄介なものを取り払うことはできなかった。このままでは日々の不満が鬱積して押しつぶされてしまうと思った松川は、松山に相談してみることにした。電話を入れると、松山がすぐに電話に出た。
「こんにちは、松山さんですか」
「おお、その声は松川君だね。元気にしているの」
「いいえ、最近は落ち込むことが多くて...松山さんに電話を入れたら、何かいいことを教えてくださるかと思って」
「ははは、コロナ化を打開するいい方法なら教わりたいくらいなんだけど、固く結ばれた紐をほぐして解くくらいならできるかもしれない。そのためには状況を教えてもらわないと解決策を提示しようがない」
「ひとつ目は毎日一所懸命働いているんですが、一向に仕事が捗りません。二つ目はそのせいか休日が憂鬱で晴れた気持ちになりません。そのため過食気味で体重が増えまくっています。体重を減らすために腿上げや背筋・腹筋をしますが、若い頃のような効果がありません。不安な気持ちでクラシック音楽を聴いてもちっとも楽しくありません」
「うーん、かなり深刻だな。でも全部心の持ちようでなんとかなるんじゃないかな」
「と言いますと」
「仕事が捗らないことはサラリーマンなら誰でも悩む問題だから、それはまた明日頑張ろうでいいんじゃないかな。貯めるのはよくないけれど、日々少しずつ処理していく上で増えていくのは仕方がない。くよくよしないことだ」
「2つ目はどうです」
「憂鬱で晴れた気持ちになれないのなら、気晴らしにクラシックを聴けばいい。最近聞いて良かったのは、セル指揮クリーヴランド管弦楽団のドヴォルザークの交響曲第8番とフルニエとセル指揮ベルリン・フィルが共演したドヴォルザークのチェロ協奏曲かな」
「過食はどうですか」
「過食というから、冷蔵庫からおやつを取り出して食べるイメージだね。休みの日は外に出て歩き回ったらどうかな。気分転換にもなるし散歩は体にいいと誰もが言うから。筋トレの効果が上がらないのは、食事量が多すぎるからじゃないのかな。夕食の量を減らせば解決できるだろう」
「不安な気持ちでクラシック音楽を聴いても楽しくないのですが」
「そうか、気晴らしにしていたクラシック音楽を聴くことが充分な効果を発揮しなくなったんだね」
「この前にフォノイコライザーのことを教えていただいてしばらくはレコードを楽しんだのですが、またレコードを聴かなくなりました」
「もしかしたら、基本的なことができていないんじゃないのかな」
「基本的なことですか」
「そう、例えば、スピーカーと載せている台に隙間がなくて音が籠っているとか」
「そうか、7年前に引っ越ししたのですが、引っ越し前には間に漫画本を挟んでいたのですが、今は何も挟んでいません」
「多分、それで音が籠って聴き苦しいのだろう」
「スピーカーが40キロあるので、ひとりでうまく漫画本が挟めるかどうか」
「ははは、そんな深刻な顔をしないでいいよ。ちょっとスピーカーを傾けて隙間に10円玉を挟めばいい。隙間ができたら改善するから」
「そうなんですね、早速やってみます。ありがとうございました。また元祖長浜屋にご一緒したいです」
「松川君ならいつでも大歓迎だよ。コロナ禍が終息したら、博多に遊びにきんしゃい」
「ええ是非」