23年ぶりに訪れた伊吹山(これはプチ小説ではありません)
私は今から12年前までは8年続けて槍・穂高登山(長野県で地震があった年は富士山と八ヶ岳に登りました)をしていて、トレーニングのために毎年7回以上は比良山の武奈ヶ岳に登っていたのですが、伊吹山は登って降りた(往復した)のが1回で、登った(往路)だけでバスで関ケ原駅まで降りたのが1回の合わせて2回だけでした。というのも、登っていて見える景色が右手に少し琵琶湖が見え(雨降岩展望台まで行くと琵琶湖がよく見えるようです)米原市、関ケ原町の平地が見えるくらいで(左手の古戦場は5合目あたりから見えるようです)、あとは山ばかりでどちらかと言うと退屈な山登りになるからです。
それに比良山はアップダウンがあって山道が整備されているので、登山経験が余りない私でも駆け下りることが可能ですが、伊吹山では大中小の石があちこちにありジグザグの山道を駆け下りるのは脚に自信がないと難しい(絶対に無理な)のです。また間違えることなく言えることは、登りばかりまたは下りばかりの山道というのは本当に過酷極まりないと言うことです。23年前に登った時は、午前8時45分に登り始めてお昼過ぎに山頂に着いたのですが、当時40才になったばかりの私も現在は63才になっているのでやはりそれ以上の時間がかかってしまいました。気温が上がっていて水分補給に何度も足を止めたりお腹が空いて5合目でサンドイッチを7合目で昼食を取ったので、30分ほどロスしてしまい山頂に着いて時計を見ると午後0時40分になっていました。
山頂に上がった時は空腹感はなくただただ口の中が熱くて乾いていたので、メロンのソフトクリームを2つ食しました。そうして午後2時30分に少し下ったところにある駐車場から出ている路線バスに乗るまで山頂近辺をぶらぶらするつもりでした。実は後で気付くのですが、これが大きな誤りだったのです。
今まで私は旅行の際には入念に下調べをして行き詰ることのないように行動して来たのですが、今回は本当に危ないところでした。前の時に復路をバスで降りられたのは、7月の下旬から8月の頃で丁度その時は季節運行の時だったからなのです。そうです今は6月中旬ですから、バスは運行していないのです。そのことに気付いたのは、メロンアソフトクリームを合計3つ食して、ソーダのソフトクリームを1つ食べて、ヤマトタケルノミコトさんの像(山頂の標識の隣にあります)を撮影してから、午後2時頃に駐車場まで下りて喫茶店の男性の方に「関ケ原まで行くバスはどこから出ているのですか」と尋ねて、「いいえ、今は運行していないはずですよ」と言われてからでした。
時計を見ると午後2時15分でした。一番日が長い時期とは言え、山は日没が早いのでせいぜい午後6時30分が限界、あれ程苦労して登って来た急な坂道を時間内に最後まで下りることができるんだろうかと思いました。駐車場まで結構時間が掛ったので、飲料水を購入してトイレをすますと午後2時40分になっていました。それから8合目くらいまでは順調でしたが、7合目の前辺りから脚への負担を意識し出し降りても降りても人に会わない(5合目まで4人しか会いませんでした)ので、果たして無事に下山が出来るのだろうかと思い始めました。天気が良かったので午後3時30分を過ぎても強い日が照りつけて、山頂で購入した飲料水もなくなってしまいました。5合目のところにコカ・コーラの自動販売機があるので、そこで麦茶のボトルを1本購入して近くのテーブルに腰掛けました。5合目の手前で挨拶を交わした年配の男性が、気さくに話し掛けて来られたので救われた気がしました。
その男性(小野さんと言われました)は79才の男性で、55才で山登り(それまでは2泊3日で西穂高岳など県外の山に行かれたようでした)をやめてからはお遍路をしている、80才になってからもお遍路を続けられるかと思い、試しで伊吹山に登ってみたと言われました。お遍路は3周目か4周目かと言われていましたが、私と違って普段運動をしておられるようでとてもスマートであと半年で80代に乗られるとは思えませんでした。その後も麓までご一緒した上に長浜駅まで車で送っていただいたのですが、話の内容も楽しく脚の痛みも忘れて下山できました。70才まで司法書士をされていたので、話題が豊富でした。それでも2合目あたりまで下りてくると、脚の痛みは最高に達して一歩足を踏み出すたびに涙が滲んでくるほどでした(別に悲しくないのに身体が反応したのです)。そこで2合目で10分程休憩を取りました。小野さんもかなり疲れておられたようでした。小野さんはそこで回復して最後まで歩く速さを保っておられましたが、私は涙が止まらずしばしば脚を止めて休みながら降りました。そしてなんとか私は午後6時少し前に登山口にある三之宮神社に着くことができました。午後6時10分に最終のバスがあったようですが、小野さんが、送って行きますよと言って下さったのでご厚意に甘えることにしました。その後も車内で楽しい会話が出来、山頂近くの駐車場の喫茶店で血の気が引いたことが4時間前のことだとはとても思えませんでした。本当に本当に旅は道連れ、世は情けを実感した山登りでした。無事に家に帰ることが出来たのはすべて小野さんのお陰です。感謝しています。有難うございました。