プチ小説「新京阪橋を挟んでの熱いたたかい たぶん最終回編」
福居はいつも通り午後5時過ぎに仕事を終えて阪急相川駅へと急いだが、朝には開通していなかった北側の歩道が通行できるようになっていたので明るい気分になった。新京阪橋は数年前から拡幅工事や補強工事を行ってきたが、ようやく完成したという感じだった。福居は思った。
<自分たちの考えでは、新しい橋を掛けるだけなら、余り苦労はしなかっただろう。でもこの橋は相川駅に直結するし大阪市内へと繋がる重要な幹線に繋がっているから、今の橋を補強するとかして引き続きこの橋を使わざるを得ない。最初は橋の手すりの上に10センチほどの鉄製の四角柱を横にしたような手すりを乗っけて拡幅工事と言っていた。その時はなんでそれが拡幅なのと思っていたが、その後大がかりな橋げたの補強工事をしたり、今回のような歩道を拡幅(1メートル→3メートル)したりした。昔の古めかしいコンクリートの橋の面影は車道と歩道の仕切りに残ったが、ここはさすがにリニューアルできないだろうから、これで補修工事は終わりになるんだろうな>
福居は、新京阪橋を渡るといつも携帯しているバカチョンデジカメでリニューアル工事が完了した新京阪橋を写した。
<でもぼくはこの橋を何回渡ったんだろう。就職した年は吹田市内にいたから、阪急電車は利用しなかった。就職して1年して高槻に転居してから、阪急電車で相川まで来たのだった。一時期、JR吹田駅経由で勤め先まで来ていたことがあるけど、通算30年近くは相川駅経由で職場に来ていた。今の職場は1998年5月に別の場所に移ったのだけれど、新京阪橋を通らないと行けない。以前は欄干越しに川を見ると大きな鯉がいっぱい泳いでいたもんだが、最近はいつも川の水が濁っていて何も見えない。たまに飛ぶ魚(中国産のハクレン)が飛び上がって川面に落ちる時にポッチャンという音がするくらいで、何の特徴もない川なんだ。もしかしたら巨大魚のハクレンが鯉を全部食べちゃったのかなぁ。それにしても景観はだいぶ昔と変わった>
そんな風に福居が物思いに耽って写真を撮っていると、イニエスタ似の男性が前からやって来た。
「オマエ、コンナトコロデ、ナニシトルンヤ」
「昔からずっと利用して来た橋の補強工事が終わったので、記念写真を撮っておこうかと思いまして」
「ホタラ、ワシガウツシタルワ」
「そうですか、それはそうと、谷さん(「ゴールデンウィークはどうしよう」参照)は、ゴールデンウィークはずっとニッキュッパ星雲に里帰りされていたのですか」
「ソコマデイクノニ1ネンハカカルカラ、タマニシカイカヘン。ゴールデンウィークハズットウチニオッタ」
「コロナ禍の今のような状況では出掛ける気になりませんよね」
「ソウヤ、ソヤカラワシハアンタト秘術ヲツクシタ、スリリングナレースヲタノシミニシトル」
「そうですか、そう言われると少し残念な気がします」
「ザンネンッテ、ナンデマタ、ソンナコトヲイウネン」
「実は、長年勤めていたのですが、今月(7月)末日で今の職場を退職します。そうすると新京阪橋は、2、3ヶ月に一度くらい通行するだけになります。クラリネットの練習のために、内環沿いのSTUDIO
YOU を利用するのですが、その時の行きだけでしょうか」
「カエリハトオラヘンノカ」
「JR吹田駅から帰ります。駅ビル地下の眠眠でジンギスカン定食を食べてから」
「ホタラ、ワシハオマエノヨコヲトオリヌケルカイカンハアジワエンヨウニナルノカ」
「そんな些細なことは、大きな喜びとはならないでしょう。もっとえっちな、いや世界を驚愕させるようなことを達成して快感を味わってください」
「ソラ、ワシノバアイモアンタトアンマリカワラン。フダンハジミチニシゴトヲシトル。...ソヤケドアンタガオランヨウニナッタラ、ダレトタワムレタラエエネン」
谷さんが残念そうに涙をぽたぽたと落としたので、福居は気の毒に思った。
「これはあくまでも予定ですが、しばらくは出身大学に通って図書館で小説を書く予定にしています。定期を買うわけではありませんが、定期的に西大路通を北に歩くつもりですので、よろしかったら、お越しください」
「ソウカ、ホタラ、8ガツカラハタマニニシオオジドオリニイクコトニスルワ」
「今後ともよろしくお願いします」