プチ小説「こんにちは、N先生28」
私は最近、水曜日は母校立命館大学の平井嘉一郎記念図書館に行って小説を書いているのですが、今日は寝過ごしてしまったので図書館に行くのはやめて京都大丸でズボンと半そでシャツを購入することにしました。そろそろバーゲンセールが始まる頃でしたし、四条通で祇園ばやしのテープがスピーカーから流れているかどうかも気になったからです。久しぶりに祇園祭の宵宮と山鉾巡行があるようなので行ってみたい気がしたのですが、かつては宵々山でさえ物凄い人でだったので復活した一日だけの宵宮がどうなるかは明らか(30万人の人出だったようです)なので宵宮3日前のお昼で我慢したのでした。大丸でシャツとズボンを購入してどこかで昼食を食べて帰ろうと考えました。無性に天下一品のチャーシュー麵と骨なし鶏肉のから揚げを食べたくなったのですが、よく考えると前の週の金曜日に食べていたので他の店に行くことにしました。大丸の近くの四条烏丸近辺は東京で言うと丸の内でエリートビジネスマン、キャリアウーマンが行き交うところなので飲食店も有名な店が肩を並べています。そこでビルの地下街を歩き回って、美味しそうなラーメン屋を探すことにしました。四条烏丸の交差点からそう遠くない駅ビルの地下1階に天天有というラーメン屋があり、美味しそうだったので中に入りました。メニューを見ると、4種類のスープ(鶏白湯(定番)、醤油、黒(濃口醤油)、鶏塩)があり、注文されるのを聞いていると「鶏塩」「定番」「黒」「醤油」と分かれていたので私はどれがいいんだろーとパニックになりました。すると隣に座った人(それはN先生でしたが)、「君い、そりゃあ、一番いいから定番というんだ。迷わないで、それを注文すれば問題は起こらないんだよ」と言われました。それで私は、鶏白湯のチャーシュー麵とビビン丼を頼みましたが、しばらくしてN先生は、やっぱり、ラーメンは醤油味が定番だねと言って、醤油ラーメンを頼まれました。私は先生に、ここによく来られるのですかと尋ねると先生は、ぼくはたまたま君がこの店に入るのを見たから、引き寄せられて吸い込まれるように入っただけだよと言われました。
「先生は私がある程度、『モンテ・クリスト伯』を読んだら、感想を求めるために出現されると思っていました。でも私が先生とお会いしてまだ10日程しか経っていません」
「前に言ったようにファリャ司祭から聞いた宝物をどのようにしてダンテスが掘り当てたのかがわかったら、君の前に現れると言っていたはずなんだが」
「そうでしたか。先生が頻繁に現れて、この興味深い物語にツッコミを入れたくなるのはよく分かります。ダンテスが牢獄から苦労の末脱出して宝探しを始めるのですが、その前に恩師で人格的にもすばらしい人物ファリャ司祭との悲しい別れがありました。ファリャ司祭はスパダ伯の財宝がモンテ・クリスト島に隠されている秘密をダンテスに明かした後すぐに急変して一度薬で命を取り留めますが、結局、発作が命取りとなり急逝します。それまでは牢獄で静かに生活していた聖職者がダンテスに知恵と希望を与えて亡くなったのです」
「そうだね、ファリャ司祭はダンテスにいろいろな教育を施しただけでなく、スパダ伯の秘宝がモンテ・クリスト島に隠されていて、その秘密は自分しか知らない。その秘宝を手に入れても何の問題も起こらないから、私からの贈り物として受け取ってくれと言われた」
「しかしファリャ司祭の贈り物、教育と財宝を意義あるものにするためには牢獄から出ることが必要でした。そこでダンテスは、もう一度ファリャ司祭のお陰で入れ替わって海に投げ込まれることになるのですが、この辺りを細かく語るのは...」
「そうさ、ある程度ドキドキ、ハラハラする楽しみは残しておいた方がいい。モンテ・クリスト島でどうして宝物を手に入れたかも詳細は語らない方がいいだろう」
「ダンテスはそうして機会が訪れたら自分を陥れた人に復讐をしようと考えるのですが、調査の段階でダングラールやフェルナンに対しては激しい怒りを持ちますが、その謀議に同席していたカドルッスには情報提供してくれたからと大きなダイヤモンドを与えたりします」
「そうしてダンテスが無実であることを知っていて自分が不利になる証拠を隠滅するためにヴィルフォールがダンテスを牢獄に送ったことも知り、ダンテスはこの3人への復讐を誓う」
「でも3人とも社会的地位が高くなっていて、財力も豊かなので一筋縄ではいかない。それに世話になった船主モレル氏が破産しそうになったり、突然、船乗りシンドバットが出てきたりとちょっと落ち着かない感じになっています」
「そうか、じゃあ、私は落ち着いたところで、ラーメン屋に行くじゃなかった君の前に現れるとしよう」
そう言って、私と先生はそのラーメン店を後にしたのでした。