プチ小説「こんにちは、N先生 30」

私は7月末で37年間勤務した医療機関を退職して、現在は小説家の卵と言われるように出身大学の図書館に通って小説を書いています。8月になって、4日、5日、8日と図書館へ行ったのですが、退職前の7月の水曜日に通った時のようにうまく行かないのに少しイライラしています。というのも8月に入ると際立って学生の数が減るだけでなく、7月までしていた放送部の校内放送がなくなり弁当屋でリーゾナブルな480円の弁当が買えなくなりました。それで仕方なく存心館の学食で昼食を取りましたが、800円かかりました。今週に入って8日は存心館の食堂も休業となったので、大学近くのオムライス(ジャンボオムライスは1800円します)で有名なひとみでステーキ弁当(800円)と串カツを1本(120円)を食べました。図書館が始まる時間も30分遅れの午前9時からになったので、午前7時に最寄りの駅発の電車に乗ると決めている私は20分余り時間を潰さねばならず、北野白梅町辺りで〇クドナルドに入ろうと思っていた私は見つけることができず、結局、午前7時40分に阪急西院駅を出て大学図書館に着くまで1時間20分ほど時間つぶしをしながら暑い中歩いたのでした。それでも馬代通りまで辿り着いた時には、すぐにコンビニに飛び込んだのでした。あまりの暑さに脳みそが焼け焦げてお焦げになりそうでしたが、コンビニの冷房で凌げました。今日はそんな無計画のことをするとほんとに脳にお焦げができると思ったので、まず西院駅を降りてすぐの〇クドナルドでコーヒーを飲んで20分程時間を潰しました。それでも馬代通り近くまで来ると全身が熱射にさらされ続けたためグロッキー状態になりました。たまに太陽が雲の影に隠れてくれなかったらもたなかっただろうと思います。そうして店の手前の信号で緑に変わるのを待っていると、N先生が私に声を掛けられたのでした。
「君はこの暑い折に帽子も被らないのかい」
「私は頭髪が少ないので帽子を被るとペッタンコになってしまい、年相応になってしまうのです。だから帽子は山登りの時しか被りません」
信号が変わったので、先生と私は信号を渡りました。
「帽子が無理なら私のように日傘を利用するのがいい、雨傘を差している人もよく見掛けるから高いのを買う必要はない。影ができればいいんじゃないかな。多分君は今からコンビニで昨日購入した、ヤンニョムチキンソースを購入するんだろ」
私は、なぜそんなことが分かるんですかと言いそうになりましたが、先生が話を続けたので言いそびれてしまいました。
「それに先週の金曜日(5日)は帰りに大雨になって、自宅の最寄りの駅から5分くらいのところにあるコンビニで30分近く時間を潰しただろう」
「あの時は日東紅茶のさとうにしきの粉末とピスタチオ味のチョコボールを見つけたので、30分足止めされたけどラッキーだったと思っています」
「物事を良かったと明るく考えるのはいいことだ。まあ、8月は暑いからそうしてやり過ごすのがいいのかもしれない」
「そうですね、私は13日にコロナワクチンの4回目接種を受けますし、今のところの楽しみは、16日に五山の送り火の鳥居形を撮るとか、27日に淀川の花火大会に行くとか考えていますが、コロナの状況次第ですね」
「まあ、鳥居形は離れたところにあるからこういう時に撮るのがいいのかもしれない。花火大会は人が多いようなら止めといた方がいい」
「ええ、雨でなければ両方とも出掛けるつもりですが、無理はしないつもりです」
「ところで、『モンテ・クリスト伯」は読んでいるのかい」
「復讐の話と言うのに、敵役のダングラール、ヴィルフォール、フェルナンがなかなか現れないのでイライラしています。親しくなったアルベールがフェルナンとメルセデス(エドモン・ダンテスのかつての恋人)の息子ということがわかり、フェルナンも現れました。ただ現在はモルセール伯爵と名前を変えているようですが...展開が遅いので、午後から前から読みたかった別の文庫本を読んでみようと思いました」
「ほう、そんなことをしてごちゃごちゃにならないのかな」
「そうですね、その恐れはあります。でもまったく違う小説を違う場所で読むのならいいんじゃないかと思いました。この小説もミステリーですが」
「小説のタイトルは」
「実はぼくは一時松本清張に興味を持ったことがあって、『点と線』は読みました」
「ああ、あの飛行機がトリックの」
「そうですね、映画も見ましたが、次に『ゼロの焦点』を読もうと思った時に仕事が忙しくなり、休みの時には鬱憤晴らしのため酒ばかり飲んでいました。日本酒の一升瓶やウイスキーのボトルを3日で空けていたのです」
「不健康で本と縁のない生活を送っていたわけだ」
「その通りです。『ゼロの焦点』もお蔵入りになり、私の暗黒時代に入ったのでした。この頃のことは思い出したくありません。でもその時に読めなかった『ゼロの焦点』を読了して、その時に興味があった『Dの複合』『眼の壁』『喪失の儀礼』も読んでみたいと思っています。読んでみたかった本が今やっと読めるという感じです。とても凝ったタイトルで、私が小説のタイトルを付ける時の参考になると思ったのも読みたくなった理由です」
「そうか、すると『モンテ・クリスト伯』はしばらくお預けになるのかな」
「私は遅読ですから、全部読み終えるのに時間がかかるでしょうが、大学図書館の午後を松本清張の読書に充てれば、年内には松本清張の読みたい本を読み終えれると思っています」
「そうか、いろいろ思いついたことはやってみたらいい。4~5年後に何かの形でいいものができればそれでいいんだよ」
N先生と私は平井嘉一郎記念図書館の前まで来ていましたが、先生は、ぼくはこれから久しぶりに龍安寺に行ってみようと思うと言われたので、私は北門を出たところでN先生をお見送りしたのでした。