プチ小説「淀川花火大会に行って来たぞ」

三年前の淀川花火大会で写真撮影をした福居は、3年ぶりの淀川花火大会の写真を撮ることにした。
「今日は天気もいいし、最近は気温が一時ほど酷くなくなった。駅前の王将で中華飯とジャストサイズの豚キムチを食べてからロケ地に行くことにしよう」
早い目の夕食を終えた福居は、午後5時過ぎに阪急電車で中津へと向かった。茨木市駅で特急に乗り換え十三駅で下車して宝塚線の各駅停車に乗り換えて中津駅に行くつもりだったが、十三駅の手前で車内アナウンスが入った。
「十三駅は現在込み合っています。乗り換えにご不便をおかけしています」
<そうか、そうだった。込み合っているのでは、すんなり電車を乗り換えて中津まで行けないかもしれない。ここは梅田まで行って乗り越し料金を払って駅を出てから徒歩で十三大橋近くまで歩くのが良いのかもしれない>
そう思って、福居は梅田終点で電車を降り茶屋町口の改札口を出た。
<ここから南の方へ、十三大橋の方へ1時間をほど歩けば、前回撮影した場所の近くに行けるだろう。今、5時40分だから、取りあえず一時間ほど十三大橋方面へと歩いてみよう>
福居がしばらく歩くと地下鉄中津駅の表示が出ていたのでこちらの方向で良さそうだぞと思ったが、それ以後は豊崎町の表示(ブロック)から抜け出すことが出来ず同じところをぐるぐる回っている気がしてきた。
<さっきも「大東洋」の看板が見えていた。あれから50分も経ったのに少しも進んでいない気がする。タクシーで十三大橋の近くまで行ってもらうことにしよう>
福居はそれから車道の側で何度も手を上げたが、タクシーは止まってくれず、12、3回目で捕まえることが出来た。
「運転手さん、新御堂ってこの上を走っている道路ですね。ぼくは十三大橋の近くまで乗っけてほしいんですが大丈夫ですか」
「お客さん、新御堂には行かない方がいいですよ。十三大橋の手前では降りられませんから。お客さんのように花火大会で近くまで行きたいという人が多くて運転手が断ることが多いと聞きますが、私は大丈夫ですよ。任せてください」
「ありがとうございます」
福居は千円札で少しおつりがもらえるくらいのタクシー代で記憶のある所まで来たので、運転手にその辺りの停車しやすいところで下ろしてくださいと頼んだ。
「すいません、ドアは手動なんで自分で開けて降りてください」
福居は下車すると、十三大橋に向かって右側の歩道をしばらく歩いて住宅街へと降りて行った。20分程歩くと3年前の撮影ポイントに出た。河岸は立ち入り禁止になっていたが、その近辺の駐輪場に沢山の人が場所取りをしていた。福居は上手い具合に淀川の堤防を見渡せる場所を見つけたので、リュックを下ろして撮影の準備を始めた。と言っても、ライカM9に90ミリのレンズを付けて、レリーズを付けて小型三脚を取り付けるだけだった。
<大きながっしりした三脚を使いたいところだけど、もう少ししたら人で一杯になるだろうしこれが精一杯だな...あーあ、いくら目立たないからと言って、それはやめてほしいな>
福居が、恐れていたことが起きた。今まで福井の前には誰もいなかったが、60代くらいのおばさんが前に立つとその後すぐに30代くらいのアベックが福居の前に立ちはだかった。福居は、30分くらいしたら移動してくれるだろう。残りの30分で撮影すればいいんだと言い聞かせて、怒りを抑えた。
しかしおばちゃんもアベックも終了の10分くらい前まではまったく動こうとせず、福居の楽しい喜びに満ちた時間はなくなってしまった。それでもアングルを上方に移し上の方にまで上がって来る花火をいくつか写すことが出来た。



<まあ、ただでいい写真を撮ろうと考える人にはそれなりのチャンスしかもらえないのだろうな>
福居はそんな弱気なことを言ったが、それでも帰宅して写真を見るといくつかいいのがあった。そうして福居は思った。来年も開催されれば同じところで撮影しよう。そうして条件はさらに悪くなるかもしれないけど、今度こそは心置きなく打ち上げ花火の写真を撮ってやるんだと思った。