プチ小説「青春の光 104」

「は、橋本さん、どうかされたんですか」
「最近、憤りを感じることがあってね」
「温厚な性格の橋本さんがそんなことを言い出すなんて意外です」
「そりゃー、私だって60代のフツーのおっさんなんだから、おならもするしおやじギャグも言うさ」
「芸術のかおりがするおやじギャグをおならと一緒にするのはどうかと思います」
「そうか、それはお腹に留めておくよ」
「ところで憤りを感じるのは船場さんのことですか」
「そうなんだ、船場君は仕事をやめて図書館に通って小説を書くと言っていた」
「橋本さんが言われるように今のところ2日に1回くらいのペースで母校の図書館に通われているようですよ。8月は休館日が多かったのに13回行かれたようですよ」
「と言っても、ほとんど午後2時には切り上げているようだし。3時間余りの時間を小説を書くのに当てているわけではないようだ」
「ぼくは小説を書くために必要なのはインスピレーションだと思うので、『モンテ・クリスト伯』を読むだけでなく、松本清張の推理小説を読むのもためになると思っています。この夏は暑いので、行きは西院駅から立命館大学まで歩く船場さんはすっかり日焼けしていて、登山に熱中していた頃のように真っ黒になっています。もう少し過ごしやすくなったら、ダイエットのために往復歩くと言われてましたし、最終的には午後4時までは図書館で頑張られるようですよ」
「そうか、まあ、小説はそれでいいとしても、再開の方はどうかな」
「クラリネットのレッスンの再開は10月からと決められていて、10月4日が再開初日となります。それから月に3回レッスンを受けられます。昨日(9月17日)は谷上先生のライヴがあるということで奈良まで出掛けられたようです」
「レッスンの日時は火曜日の午後5時30分だったね。発表会に出るのかな」
「最近、NHK喉じまんで「千の風になって」を気持ちよさそうに歌っている男性を見て、クラリネットで吹いてみたくなったそうです。それで楽譜を買われたのですが、思うのが見つからないと言われていました」
「シャープを2つつけて音をひとつ上げないといけないから、最初からシャープが4つついているとスローテンポの曲でも演奏は大変かもしれない」
「そうですね、ヴォーカル用の楽譜でB管クラリネットの伴奏をお願いするためには、2つシャープをつけて音をひとつあげて演奏しないといけないんでしたね」
「発表会が出来るんなら、船場君のことだから熱心にレッスンに取り組むことだろう。もうひとつのLPレコード・コンサートの再開はどうなのかな」
「こちらはコロナ次第でしょう。前にも言いましたようにマスターにも了解を得ていますしフライヤー、原稿も出来ていますから、いつから始めるかということになります。船場さんは3、6、9、12の年4回開催したいようですから、12月からか3月からかということになります」
「船場君は貯金を切り崩しての生活だから、今までのように前日から東京に行くことは諦めたようだ。その代わりLPレコード・コンサートが終わったら、行きつけの中古レコードに寄りレコードを漁ってから帰阪すると言っていた。そうなると名曲喫茶ライオンは1回しか行けない」
「まあ、前日の土曜日の夜はレコード漁りして居酒屋に行くだけでしたから、ホテル代の節約になりますし1日(日曜日)で終わりでもいいんじゃないですか。函館とかいろいろ行きたいところがあるようですし」
「まあわれわれとしては少しでも早くLPレコード・コンサートが再開できるようになることを神様にお祈りすることにしよう」
「そうですね」