プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 カカオは第?の嗜好品編」
わしが幼少の頃の楽しみは、父親が給料日に買って帰るお菓子やった。バナナや葡萄のような果物ということもあったけど、一番多かったのはグリコのチョコレートやった。確か当時放送されていた鉄人28号や遊星仮面や遊星少年パピィのステッカーがおまけに入っていたんで、父親がチョコレートを購入して帰ると大喜びしたんやった。そのステッカーも今のと違ってこすりつけるタイプで、こすりつける対象物(家具の側板や押入れの引き戸が多かった)にそれを貼って爪で30回くらい擦るとセロファンだけがはがれて絵が描かれた糊の部分だけが残ったんやった。その頃に住んでいたのが、戦後すぐに建てられた国鉄の官舎で平屋の木造長屋やったから、そこら中に鉄人28号やパピィのシールを貼っても両親は何も言わんかったけど、近くに出来てた5階建ての鉄筋アパートやったら50年くらいは使えたやろから、母親から、そんなことをしたらあかんよと叱られとったと思う(木造官舎はそれから12年して、鉄筋のアパートはそれから50年くらいして取り壊された)。それからもチョコレートは大好物やったが、遠足のおやつには高すぎてよう買わんかった。駄菓子屋さんにはグリコのアーモンドチョコやロッテや明治のミルクチョコが陳列されることはなく(駄菓子はせいぜい20円までやったが、チョコレートは100円以上した)、子供がチョコレートを購入するようになったのは近くにコンビニができてから(昭和50年頃)やったと思う。それでも100円出してチョコレートを買うだけの小遣いを持っている中学生や高校生はあんまりおらんかったから、高校を卒業してバイトで稼ぐようになってやっと自分でグリコのアーモンドチョコを買ったんやった。赤と白のがあってわしは赤ばっかり食べとった記憶がある。そんなわしも社会人になってからはタバコは吸わんかったけど、他の嗜好品へと興味が移って行った。まずはいろんな種類の酒があるけど、お酒は最初だけでアルコールが回ると舌が利かなくなって味がわからなくなるから、ちょびっとだけしか楽しめん。そやからわしは嗜好品の中には入れへん。酒は酒として心地よくなるのを楽しめばええと思う。コーヒーと紅茶、日本茶、中国茶、マテ茶、チャイなんかのお茶類が嗜好品やと思うて30才から40才の頃にはいろんなコーヒーやお茶を飲んだもんや。見栄を張って1000円以上もするブルーマウンテンコーヒーを50グラムだけ買ったり、マンデリン、コロンビア、ブラジル、キリマンジェロなどいろんな産地のコーヒーを買ってみたり、アッサム、ダージリン、アールグレイ、ウバなんかを神戸の輸入食料品専門店で購入したもんやった。紅茶は一時毎日1リットルくらい飲んでたんやが、ある日差し込むような胃痛に襲われて胃カメラをしてもらったら胃潰瘍と診断されて、紅茶は飲まんようになってしもうた。愛飲してたからストックもあったんやけど全部ほってしもうた。紅茶ファンの人から、あんたの飲み方が悪いと言われそうやけど、放っておいたら将来差し込む痛みが大病に繋がるんやないかと思うて小心のわしは紅茶を断ったんやった。そやけどそれからしばらくしてペットボトルのミルクティーが出てそれをしばしば飲んどるから、わざわざ専門店に行かへんようになったというのが本当のところかもしらん。コーヒーも一時おいしいといわれる豆を求めてあちこち出掛けたんやけど、やっぱり際立っておいしいコーヒーというのは高いし、今のわしには嗜好品にそんなお金を使ってられへんというので、スーパーや百貨店で売っとるそこそこの値段ので我慢しとる。船場は最近、チョコレートも嗜好品やと言うとって、西大路通の京都COCOというカカオ専門店で2枚2600円のチョコレートを購入したみたいやけど、あいつそんな金持っとったんかなと思うわ。あいつこの夏2枚のポロシャツと1本のスラックスで過ごしたみたいやけど嗜好品には湯水のごとく使うんかな。いっぺん訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、にいさん、2600円もするのにようチョコレート買うたなということですね。そらそやろ、グリコのチョコレートやったら、400円も出さんで美味しいのに、50グラム1250円以上もするチョコレートをわざわざ買う必要があるんか。まあ、そこが嗜好品たる所以で、それぞれの国のカカオが持つ独特の甘み、苦味、酸味はどんなんかなーと思うんです。知的好奇心というか、舌にどんな娯楽(快感)を与えてくれるかとかがあって思わず、手を出してしまうわけなんです。ほう、国によってカカオの味が違うんかい。そうみたいですよ、ぼくがもともとカカオに興味を持ったのは今から半年ほど前に東京駅でカカオ専門店を経営しているカカオハンターの小方真弓さんの記事を日経新聞で見たからです。南米コロンビアにチョコレート工場を持っておられるようで、小方さんによると、コロンビア、ペルー、ブラジルなどの中米諸国、ガーナ、マダガスカルなどのアフリカ諸国のカカオ豆にそれぞれ特徴があるだけでなく、コロンビア国内でもいろいろなカカオ豆がある。だからいろいろな豆を自分で味わって楽しんでもらえるものを日本の人に提供したいと言われていました。京都COCOでは、チョコレートドリンク(ショコラフロア)とガトーショコラをお店の中の喫茶コーナーでいただき、マダガスカル50%とガーナ60%の板チョコを2枚購入しただけですよ。チョコレートは身体に負担がほとんどない嗜好品やと私は思うんです。コーヒーにはカフェインがあるから眠れないと困ります、紅茶は飲みすぎると胃に炎症が起こります、はちみつは子供(乳児)に有害なことがあり原因が解明されていません。チョコレートを食べて何かが起きたということは聞きませんし、安心して食べられる嗜好品と言えるでしょう。そういう訳で私は興味を持っているのですが、にいさんが言われる通りちょっと高いですので、たまに京都COCOを覗いてみたいと思っています。まあ、コロナ禍がおさまったら、東京のカカオハンターにも行ってみたらええんとちゃう。