プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 シューベルトの歌曲はええよ編」

わしが幼少の頃に通学しとった小学校にも音楽室があって、音楽家の肖像画が貼られてあった。やっぱりバロック音楽の代表である、ヴィヴァルディ、J.S.バッハ、古典派のハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンがそこにあったが、ロマン派のシューベルト、ウェーバー、シューマン、ショパン、メンデルスゾーン、ベルリオーズ、ブラームス、歌劇の作曲家ロッシーニ、ヴェルディ、ワーグナー、ビゼー、プッチーニ、フランスの作曲家サン=サーンス、ドビュッシー、ラヴェル、国民学派グリーグ、スメタナ、ドヴォルザーク、チャイコフスキー、シベリウスもあった。それからヨハン・シュトラウス2世、なぜかロシアの作曲家がようけあってリムスキー=コルサコフ、ムソルグスキー、ラフマニノフ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチがあったんやけどマーラー、ブルックナー、リヒャルト・シュトラウスなんかはなかったような気がする。その中で最初に目を引いたのが眼鏡を掛けたシューベルトやった。ほんでー31才という短い生涯の間に、たくさんの歌曲を作曲して歌曲の王と言われていることや未完成交響曲という名曲を残しとるというのも鼻についたいや耳に残った。特に歌曲「魔王」は18才の若い時に作曲したものやのに劇的な盛り上がりを見せ、魔王、お父さん、子供の三人の声を使い分けて歌わんといかんちゅーことを知ってそら大したもんやなと思うたんやった。シューベルトは37才で亡くなったモーツァルトや38才で亡くなったメンデルスゾーン、39才で亡くなったショパンなんかよりずっと若くして亡くなったし、歌曲だけでなく交響曲、室内楽曲、ピアノ独奏曲なんかにもたくさんの名曲を残しとる。偉大な作曲家の中でも短い生涯で極めてたくさんの名曲を残した作曲家やなあと思うて、音楽室で掛けてもらった「魔王」のレコードを謹聴したもんやった。船場も昔からシューベルトのファンで、未完成交響曲から始まって、交響曲「ザ・グレイト」、室内楽曲、弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」、ピアノ五重奏曲「ます」、弦楽五重奏曲、ピアノ三重奏曲第2番、八重奏曲、アルペジョーネ・ソナタ、ピアノ・ソナタ第20番と第21番、即興曲集、さすらい人幻想曲なんかを楽しんどるちゅーとったけど、最近、シューベルトの歌曲に凝り出して、クリスタ・ルートヴィヒやルチア・ポップの歌曲集を聞いとったと思うたら、お金もないのにデートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのシューベルトの歌曲全集(CD21枚)を買いよった。なかなか聞かれへん名曲があって、この全集やったら聞けるということで買うたみたいやが、7,800円もするのに費用対効果があるんかいな。いっぺん訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、兄さん、以前、ぼくが買うたリヒターのバッハカンタータ全集CD26枚みたいにならへんかと心配してくれてはるんですね。そうや、お前、リヒター全然聞いてへんやろ。いえいえ、1回は通して聞きましたが、ぼくは合唱曲が苦手みたいです。そんなこと言うけど、ピアノの伴奏だけのバリトン独唱やからすごく地味な演奏やし...わしは心配しとるんや。バッハと違うのはシューベルトの曲が美しいメロディに富んでいて飽きさせないところです。バッハのカンタータは確かに合唱曲として優れたものなのかもしれませんがシューベルトほど美しい旋律が次から次へと出て来るというほどではありません。それにフィッシャー=ディースカウはシューベルトの歌曲の録音をライフワークにしていました。「美しき水車小屋の娘」は3回、「冬の旅」は5回、「白鳥の歌」は4回は録音しています。他の歌曲も彼の味わい深い歌声が聞かれます。にいさんはドイツ歌曲を聴かれることはまれでしょうが、フォークソングやロックは聴かれるでしょう。フィッシャー=ディースカウは彼らのように何度も歌い込んで自分の世界を作っています。それから彼の安定した澄んだ声は何時間聞いても飽きないし疲れないというのもあります。ほんで、なかなか聞かれへん名曲はどうやったんや。「流れ」D.693のことですね。素晴らしい歌声でしたよ。同じCD(12)の最後に「春の想い」が入っていて、こちらも最高でした。1つのCDに10~20曲入っていますが、2、3曲は知っている曲があると思うので飽きることはないと思います。知らない曲を続けて聞かないといけないバッハのカンタータ集とは全然違うと思います。フィッシャー=ディースカウが「アヴェ・マリア」「楽に寄す」「水の上で歌う」「君はわが憩い」「シルヴィアに」「幸福」「ます」などをどのように歌うのかとても楽しみです。オペラや合唱曲で歌うフィッシャー=ディースカウは余り聞いたことがないのですが、そちらにも興味が行く切っ掛けになればと思っているんです。そうやな、それはええ考えやと思うわ。