プチ小説「青春の光 108」

「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「前回、このプチ小説の中で船場君の母上が緊急入院したことを言ったが、その後極めてわずかなこのサイトの読者の中にその後お母さまがどうなったか気になっておられる方がおられるのではないかと思うのだが、その後の経過を言った方がいいのか迷っているんだ」
「私が船場さんに聴いたところでは、快方に向かっている。写真も明るい笑顔で写っていると言われていました。簡単な経過を話すだけならいいんじゃないんですか」
「そうか、それなら簡単に今までの経過を話すことにしよう。船場君も経過をきっちり残しておきたいが、ノートに残すのではどこかに行ってしまう恐れがあるので、まず紛失の恐れがないところに残しておきたいと言っていた。われわれは船場君の応援団だから船場君が困っている時にいろいろお役に立ってきたが、今回もささやかだが船場君を助けることにしよう」
「そうしましょう、そもそも発端はどうだったんですか」
「船場君とお母さんは別世帯の隣同士で内線で連絡し合うことができる。昨年の12月11日(日)の午後3時30分頃にお母さまから酷い腹痛なのですぐに来てほしいと連絡があった。それで10分後にお母さまのところに船場君は駆けつけたが、腹痛が酷いし、下血しているので救急車を呼んでほしいと言われ、すぐにトイレに入られた。トイレに入ってから、しばらくすると「痛い痛い、早く救急車を呼んで」と言われ、その後「痛い痛い」は途切れることはなかったそうだ」
「すぐに、救急車は来たのでしょうか」
「10分位で来たが、どこに搬送するかが問題になったが、お母さまが大学病院を強く希望されたので、了解を得て大学病院への搬送となった。到着すると血液検査、CT検査をして結果が出てすぐに救急外来担当の内科医から説明があった。直腸のところで穿孔して便がもれている。早く手術しないと生死にかかわるということで、午後6時過ぎに手術が始まることになった。それから約6時間で手術は無事終わったが、2つの問題が残った。手術を担当された救急外来の外科医から説明があったのだが、人工肛門(ストマ)を設置したので、それに慣れてもらう必要がある。また全身麻酔で手術したので後遺症が出る恐れがある。日頃から足腰、指先の機能が充分でないとのことだから元の状態になるまで時間がかかるかもしれない。当院は救急指定病院なので手術後の回復までは診療をさせてもらうが、落ち着いた後のリハビリなどはリハビリ病院に転院して受けてもらうことになると言われた。先生からの説明が終わったのが午前2時半頃で家に帰ったのが午前3時頃だったが、お母さまは順調に回復されその日の午後には全身麻酔から意識が回復されたらしい」
「その後も問題なく経過されたようですが、人工肛門となったら装具の交換が必要となりますね」
「そうなんだ、お母さまは12月30日に摂津市のリハビリ病院に転院になるが、それまでに3回船場君は大学病院の病棟看護師やストマ外来看護師から装具などの取り扱いについての説明を受けたそうだ。それに人工肛門を設置したので、介護度がそれまでの要支援から要介護に変更する手続きや装具の費用などの公的補助を受ける手続きが必要になる。今までお母さまは長期入院したことがなかったので入院限度額申請も必要だったみたいだ」
「装具の業者とのやりとりも必要だったのですね」
「そう、船場君は自宅用と病院用それぞれ2ヶ月分装具や取り替えの時に必要なスプレー、接着剤などを送ってもらった」
「他にも業者とのやり取りがあったのですね」
「お母さまが両膝のサポーターをすることになり実費での購入だったので、保険扱いにしてもらうために業者、市役所との間で書類のやり取りがあったみたいだ」
「リハビリ病院への転院も救急車での搬送だったんですか」
「まさか、それにお母さまの状態も良くなっていたので、介護タクシーで転院された。これほど順調に回復したのは早期に受診して、適切な診察、適切な検査、適切な手術を受け、集中治療室、病棟で適切な診療を受けたからで、船場君は、医大の救急外来の先生方(S先生とH先生)とA7病棟の看護師さんの対応には感謝していると言っていた」
「それから年末の忙しい時期に転院を勧めて下さったMSWさんにも感謝した方が...」
「最初船場君は年が明けてからと悠長に構えていたが、T社会福祉士の勧めで摂津市内のリハビリ病院への転院となったのだが、このリハビリ病院の主治医、病棟看護師さん、リハビリ技師の方たちが親切で親身に対応してくださったので、お母さまには笑顔が戻って、絵をまた描きたいと思われたようだ」
「船場さんのお母さんは10年程前まで墨彩画やデッサンなどを絵画教室で習われていたんでしたね」
「術後、手がしびれているようだが、ネコやイヌを描きたいからかわいい写真を持って来てほしいと言われたそうだ。それで船場君はカレンダーを5部持って行ったらしい」
「三毛猫や柴犬のカレンダーをアマゾンで購入したようですよ」
「おかあさんは、お礼の手紙を主治医の先生に書いて、入院して球根を植えられなかったチューリップをリハビリ病院に寄付したそうだ」
「85個もあったそうですが、そんなに大きな庭があるのですか」
「いや、プランター5つほどにまとめて植えるようだ。お母さまは園芸の趣味もあって、家の前にある庭は畳半畳分もないが、有効に活用しておられる。春にはチューリップが、秋にはインパチェンスの花で花壇は埋め尽くされる」
「絵も園芸も以前のように出来るようになるといいですね」
「そのためには2月25日に移った老健施設でどれだけ機能回復できるかだ」
「そうですね、リハビリ病院も最長2ヶ月間しか入院できず、その後は老健施設でリハビリを受けることになるそうですが、お母さまも気に入っておられたようなのでもう少しリハビリ病院に入院出来たら良かったのにと思います」
「でも規則なんだからしょうがないさ。昔ならしんどいというだけで大きな病院に入院出来たが、今はそうはいかない。入院しても最小限だ。でも一所懸命患者のために診療してくれる医師、看護師、コメディカルの人たちには頭が下がる。船場君も医大、リハビリ病院の職員の方には本当にお世話になったと言っていた」
「後は今いる老健施設でどれだけ回復できるかですね」
「リハビリ病院は毎日40分以上のリハビリが受けられるが、老健施設は週2回20分のリハビリということだ。医師、看護師もリハビリ病院ほどいなくて職員のほとんどが介護士だ。親切で新味に対応してくれることには変わりがないと思うが、診療としては充分とは言えない。2ヶ月くらいで退所して後は自宅で機能回復に努めるのがいいと船場君は考えているようだ。自宅での介護はいろいろ大変なことが起きると思うが、お金がかかるのでいつまでも老健施設頼みにするわけに行かないと言っていた」
「そうですね、退所されてしばらくはお母さまはいろいろ困難なことに戸惑われるかもしれませんが、以前のように絵を描いたり、いろんな花を育てたりできますし、親戚とも会えます。早く以前と同じような生活が出来るようにと願っています」
「わしも心からそう願うよ」



誕生日に千円ガチャの
真珠のネックレスをもらって