「小池滋先生、ありがとうございました」(これはプチ小説ではありません)
ディケンズ・フェロウシップの日本支部長をされた(1990年10月~1999年10月)、英文学者で翻訳家の小池滋先生が2023年4月13日に亡くなられ、ディケンズ・フェロウシップの会員の私にも訃報のメールが昨日(4月16日)届きました。私は2011年9月に文豪ディケンズが主人公の夢の中に現れて、主人公の人生相談に乗ったり、自分の作品について解説したりする小説『こんにちは、ディケンズ先生』を出版した時にディケンズ・フェロウシップに入会させていただいたのですが、残念ながら小池先生は2007年の総会を最後に年に1~2回の研究者や愛好家の集まり(春季大会、秋季総会)に出席されなくなり、私は何とか小池先生とお話したいと会員になってからずっと思って来ましたがそれももう叶わなくなってしまいました。拙著を出版した時にディケンズ小説の翻訳家であった小池先生にも見ていただけたらと思い出版社から小池先生宛てに代行発送してもらいましたが、予想していなかったことに先生からのお便りが来てしかもそれには励ましの言葉が書かれてあり、その後何回か年賀状の返事もいただいたのでした。出版社が流通する自費出版にしてくれたものの私は自分の著作に全く自信が持てなかったのですが、小池先生から励ましのお便りをいただいたので、『こんにちは、ディケンズ先生』の続編を書いてディケンズの著作について自分の見解を述べてディケンズの小説の楽しさをより多くの人に知っていただこうと思ったのでした。
私は中学、高校の頃は読書をほとんどせず、高校生の頃は、SF小説や井上ひさし氏の小説を合わせて年に30冊程度読んだくらいでした。しかしそれでは当然大学に受かるはずはなく長い浪人生活に入ったのですが、予備校の講師の先生から得点アップのためには本をたくさん読むようにと言われて幅広く本を読むようになり、大学に入る頃には難解と思われるディケンズの長編小説も読めるようになったのでした。その頃、ディケンズの小説で文庫本で出版されていたのは、『デイヴィッド・コパフィールド』(中野好夫訳)、『二都物語』(中野好夫訳)、『大いなる遺産』(山西英一訳)と『オリヴァー・トゥイスト』(小池滋訳)で、ディケンズの小説のハードカヴァーでは『荒涼館』(青木雄造・小池滋共訳)、『ピクウィック・クラブ』『骨董屋』(以上、北川悌二訳)そして小池先生訳の『リトル・ドリット』が出版されたところでした。他に小池先生は『バーナビー・ラッジ』も翻訳(1975年)されていて、私はいつか小池先生のハードカヴァーのディケンズの小説の翻訳をじっくりと読んでみたいと思ったのでした。しかし『リトル・ドリット』を読み終えたのは、2009年でそれから28年経過してからのことでした。大学に入った頃にディケンズの小説が読めるようになったとはいえ、理解度は60パーセント程度でした。それでも2005年頃から長編小説をじっくりと味わって読めるようになり、理解度も80~90パーセント位になりました。小池訳の『オリヴァー・トゥイスト』を再読するととても面白く、『リトル・ドリット』はさらに面白かったので、『バーナビー・ラッジ』に挑戦しました。こちらは難解で60パーセントくらいしか理解できませんでしたが、『荒涼館』は一人称で書かれた部分は楽しく読めたのでした。こういった体験から、これを小説にしてみたら面白いのではないかと考えて書き始めたのが、『こんにちは、ディケンズ先生』でした。そうしてそれを出版したいと思ったのですが、出版については全く知識も伝手もなく、浪人時代に何度か読売新聞に掲載されていた近代文藝社の広告を思い出し原稿を同出版社に送って査定してもらいました。B判定(自費出版だが流通する)という判定だったのですが、出版費用が150万円近くかかり、千冊の本をどうして捌くのかと親から猛烈な反対がありました。しかし私は子供がないので後世に何か残せるものがないかと思っていたので、反対を押し切って出版しました。代行発送してもらってしばらくして小池先生から励ましをいただいたので、出版社から大学図書館に代行発送してもらい拙著の第1巻、第2巻は全国90余りの大学の図書館に受け入れてもらうことができたのでした。これは小池先生が励ましてくださったおかげで、いくら感謝してもし足りないくらいです。本当に有難うございました。それなしには、ある方が言われたように、300冊売れたらいいところと思って何もせずにせっかく出版したのにそれで終わりだったと思います。そうしてその後大学図書館だけでなくさらにたくさんの公立図書館にも受け入れてもらうことができたのでした(全国の図書館を回って、受け入れをお願いするのはこの上ない楽しみと喜びでした)。
出版を切っ掛けにして、小池先生と親しくされている荒井良雄先生とも交流がありました。私は東京阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンで長年レコードコンサートを開催していて、荒井先生もそこで長年朗読会を開催されていたので、荒井先生から表彰してあげようと声を掛けていただき、表彰状と副賞の置時計をいただいたのでした。その後も荒井先生は私が作成(編集)してホームページに掲載している朗読用台本「ミコーバの爆発」(ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』から)を朗読してくださいました。その後荒井先生が体調を崩されて、『カートンの愛情』(『二都物語』から)を読んでいただいて2年もしないうちに荒井先生は旅立たれたのでしたが、今、小池先生も天国に着かれ、長年親交があった荒井先生と再会されて久しぶりだなぁと談笑されているのではないかと想像しています。
小池先生はいくつかイギリス文学の名作を翻訳されていますが、私は、先生の翻訳は優れていて読みやすく、特にディケンズの『オリヴァー・トゥイスト』『リトル・ドリット』『荒涼館』はすばらしい翻訳だと思いますので、中年を過ぎて名作をじっくり読んでみたいとお考えの方がおられたら、是非その3つを読んでみてくださいとお薦めしたいのです。そうすればディケンズの小説が好きになり、『大いなる遺産』『ディヴィッド・コパフィールド』『二都物語』を読んだ後に『ピクウィック・クラブ』『バーナビー・ラッジ』『ニコラス・ニクルビー』『骨董屋』にも興味が湧くと思うのです。古書で700ページ近い携帯しにくい講談社文庫ですが(その後ちくま文庫も出ています)、小池先生の訳書に興味をお持ちならまず『オリヴァー・トゥイスト』を読んで見られてはいかがでしょうか。