プチ小説「こんにちは、N先生 56」

私は昨年11月頃から市バスを利用して母校立命館大学の図書館に行くことが多くなったのですが、阪急電車から市バスに乗り換えて立命館大学前まで行くにはいくつかの方法があります。1.阪急西院駅から大学前まで行く 快速205番 2.阪急大宮から大学前まで行く 52番か55番 3.阪急烏丸から大学前まで行く 12番か52番か55番 他にも大宮駅から四条堀川まで5分程歩いて50番に乗る、阪急京都河原町から市バスに乗るなど他にも方法があるのですが省略します。最近は四条烏丸駅に午前7時50分頃に着き、ホリーズカフェ錦烏丸店でホットコーヒーのLを飲んで四条烏丸8時23分のバスに乗るのですが、このバスは始発なのに22分発が30秒後に出発したり8分後に出発したりします。今日は24分にバス停に着いたのですが、もう出発した後でした。私は12番のバスに乗ることにしましたが、このバスは非常に混むのでなるべく避けてきました。四条西洞院のバス停で10人~20人の外国人観光客が乗り込んで来て、二条城前で少し下りて、金閣寺道で残りの客が下りられるのです。日本人も少しいますが、ほとんどが台湾、韓国、中国そして米欧の観光客です。私は12番のバスに乗った時は必ず一番後ろの4人掛けの椅子の窓際に座ります。2人掛けに座ってそこに100キロ以上の女性または外国人が掛けられることを恐れるからです。今日も金髪の体格の良い男女が何人か市バスに乗り込んできましたが、その中にN先生がおられました。一番後ろの4人掛けに3人しか座っていなかったので、N先生は私の隣に座られました。
「君はその後いくつかの松本清張の本を読んだのに、感想を聞く機会がなかったね」
「そうですね、「巨人の磯」「隠花の飾り」「憎悪の依頼」といずれも短編集ですが、特に「隠花の飾り」は原稿用紙30枚以内の短編が11編というもので舌足らずな感じの短編が多かったです」
「じゃあ、印象に残る短編はなかったのかな」
「いいえ、「巨人の磯」では、『巨人の磯』のトリックに無理がある気がしましたが、清水医師の推理で解決するというのはオーソドックスな推理小説だなと思いました。他の『冷遇の資格』『内なる線影』『理外の理』それから邪馬台国の話が出て来る『東経一三九度線』はどれも興味を持って最後まで読むことが出来ました。でも、超短編小説ばかりの「隠花の飾り」はまだ解決していないような作品がいくつかあり物足りない気がしました。やはり犯罪小説は犯人が降参したり、きっちりした推理を犯人に突きつけてすっきりと終わってほしいのですが、『愛犬』『お手玉』は舌足らずなのでもう10枚書き加えてほしかった気がします。でも他の作品は短い小説ですが最後まで興味を持って読みました。「憎悪の依頼」の中では『女囚』『文字のない初登攀』『絵葉書の少女』『大臣の恋』『金環食』は興味深く一気に読みました。でも、『憎悪の依頼』『流れの中に』『壁の青草』は凝りすぎていてついて行けない気がしました。今、松本清張が書いたSF小説と言われている『神と野獣の日』を読んでいますが、面白いのでゴールデンウィーク中に読み終えられると思います」
「となると西洋文学を最近読んでいないのかな」
「次にどれを読もうかと迷ったのですが、土屋京子訳の『トム・ソーヤの冒険』と『ハックルベリー・フィンの冒険』が面白かったので、土屋京子訳のウェブスター『あしながおじさん』を読むことにしました。『赤毛のアン』シリーズと同様に一生読むことがないと思っていたのですが、古本を購入して少し読んでみると手紙文で土屋氏が読みやすく訳されているのですぐに読み終えれると思い、読み始めたのでした」
「なぜ『赤毛のアン』を読まないのかな」
「簡単に言うと私が女性でないので感情移入ができないということです。それに『赤毛のアン』シリーズには際立った登場人物が出て来ない気がするのです」
「まあ、好き嫌いはなるべくよした方がいい。シリーズで沢山の本が出ているんだから、読んでみたら楽しいと思うよ。ところで『あしながおじさん』は面白かったかい」
「孤児が文才を認められてあるお金持ちの男性が女学生の大学生活のサポートをする(その代わりに毎日手紙を出す)というのは、孤児や一人で大学生活をする女子大生に大きな夢を与えると思います。あしながおじさんがいったい誰なのか、ヒロインがどんな日常をおくるのかというのも興味深いので最後まで楽しく読むことが出来ました。ヒロイン ジュディ(ジェルーシャ)・アボットが明るく活発ではらはらさせるところもありますが、大きく道から外れることがなく学生生活を楽しみながら成長していきます。そこにウェブスターの優しいまなざしが感じられ、温厚な性格が伺えます。作者ウェブスターが長年恋い焦がれたマッキニーと結婚出来てこれからという40才の手前で亡くなったのは、本当に惜しいことだと思います」
「そうだね、ぼくはウェブスターが長生きしてたら、ジェルーシャ・アボットのその後を小説にしたと思う。『神と野獣の日』を読み終えたら、次は何を読むのかな」
「猪俣和夫訳のヘッセ『ペーター・カーメンツィント』を読もうかなと思っています」