プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 デジタルよりアナログのほうがええんとちゃう編」

わしが物心ついた頃はデジタル(制御)というものがのうて、時間なんかは自分で管理したもんやった。白物家電で言うと当時電子レンジはなくてほとんどの料理はガスコンロに火いつけて煮炊きしたもんやった。最近は電子レンジといろんな調理器具を使えばレストランで食べるような高級料理も作れるみたいやけど、わしはアルミ鍋に水入れてガスコンロの上に置いて火いつけて、沸騰したら〇ッポロ一番のしょうゆ味かみそ味かしお味かごま味のどれかを茹でて、それをご飯と一緒に食べるラーメンライスが長年の昼食の定番やった。ボン〇レーもよう食べたが月に一回くらいで、他の日はインスタント麺やった。物心がついた頃に家にあった洗濯機には脱水機はついてなくて、向って左サイドにローラーが付いていてそこに洗った洗濯もんを通したんやった。しばらくして脱水層が左サイドに付いた二層式の洗濯機を家でも使うようになってアナログ式(ねじ式)のタイマーが付いとったのを覚えとる。まだ回転しているのに蓋開けて、母親に怒られたのを覚えとる。テレビはもちろんブラウン管でリモコンなんちゅー便利なもんはなかった。家は5人家族でチャンネル争いが激しかったから物心ついた頃からあった4隅に直径3センチくらいの足が生えたテレビはチャンネルが壊れて取れてしもうてペンチで回さんとあかんようになった。家の父親がちょびっとだけオーディオに興味があったんか、わしが小学校4年生の頃にポータブルレコードプレーヤーを、中学1年生の頃にチューナー付きのステレオ「白馬」を買うてくれた。そうして母親も本屋に勤めていたからアナログレコードをようけ買うてくれた。おかげでわしはいろんな世界の音楽を興味を持つようになったんやが、このステレオはターンテーブルの回転速度が少し早くて、チューナーはつまみを回して周波数に合わせるやつやった。何でか知らんが、モスクワ放送、北京放送がよう入ってしばしば民放が聞こえなくなったもんやった。このステレオを就職して2年目にケンウッドのステレオを購入するまで使ったんやが、レコードの回転数が少し早い以外はええ音やったし文句はなかった。ケンウッドのいわゆるコンポタイプのステレオはラジカセを大きくしてレコードも聞かれるようにしたもんやったからもっとええ音で聞きたいと思うたが、それからわしはもっぱらカラオケに興味を持つようになってオーディオやアナログレコードに興味を持たんようになった。船場はわしと同じケンウッドのステレオを購入してその後、高級オーディオ、CD対応なんかをしたみたいやが、あいつ10数年前から薄給のために高級カートリッジの購入(修理)がでけんようになって最近まで困っとったみたいや。そのあたりどうなったんか訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、わたしのオーディオ機器がどうやったか、ええ音で聞けたんかなんかをお知りになりたいんですね。そうや、どんな具合やったんや。ケンウッドのコンポの音が不満だった私はまずはプレーヤーとスピーカーをいいものにとプレーヤーをヤマハのGT-2000、スピーカーをオンキョーのモニター2000に変えました。でもこの時はカートリッジが安物でケンウッドのコンポとの相性も良くなかったので音は酷いものでした。どんな音やったんや。メリハリだけで優しい軽やかな音ではなかったです。それでそういう音でききたくなった私は音を拾うカートリッジ、制御のためのプリメインアンプを出来る範囲の最高級のものをと考え、カートリッジをオルトフォンのSPUクラシックGに変え、プリメインアンプとしてラックスマンL-570を購入しました。これでアナログの素晴らしい音に浸れるようになったのですが、ある日、尼崎のアルカイック・ホールに行くとそれを見に来ていた大阪市役所の方とオーディオ談義となり、今の時代アナログを聞くなんて時代遅れ、自分の知り合いはCDの音が素晴らしいと言って、アナログプレーヤー、レコードのすべてを処分したと言われました。それでパイオニアのCDプレーヤーを購入したのですが、CDプレーヤーの音の貧弱さを確認するだけに終わりました。そのプレーヤーが8万円くらいだったので、50万円位のを買えばもっと改善できるかもと思いましたが、当時CDは3000円ほどしましたし、アナログレコードの音が気に入っていましたので、CDはほとんど買わずに、より良い音の外国盤(プレミアム盤)を購入するようになりました。ソフト(レコード)の質を高めてより良い音にすることを考えました。そうして給料が出る度に大阪、京都、神戸の中古レコード店で名盤漁りをして「名盤をよい音で聴くという趣味」を深めて行きました。つまり名演奏家の名盤をできるだけたくさん購入するというのを。聴きたい名盤を一通り聴いたところで、厳しい状況になり生活費を切り詰めなくてはやって行けなくなりました。それで1年に一度約10万円で取り替えていたオルトフォンのカートリッジをやめて、3万円程のMMカートリッジに変えました。もちろん音の違いが歴然でスピーカーから流れ出る音に好感が持てなくなりました。それだけでなく針がオルトフォンSPUクラシックG(MCカーとリッジ)のような重さがないためレコードの溝をきちんとトレースせず、針飛びがしばしばでした。こうして20年近く続いていたレコードに浸れる環境がなくなってしまいました。ほんで、お前、生き甲斐を失ってどうしたん。それでCDを購入して聴き始めたのですが、やはりレコードのような耳に馴染む音ではありませんでした。それにアンプとのそりが悪いのか、しばしば音飛びをしました。音がまったく出なくなるということもありました。CDプレーヤーを2台買い替えましたが改善されません。音楽漬けの毎日を送っていた私にとって、レコードもCDも満足に聞けない日が10年程続きました。それに代わって中古CDのプレミアム盤をそこそこの音で聞くという日が続きました。CD装置(プレーヤーとプリメインアンプ)は相性が悪くあまりいい音だとは思いませんでしたが、1年程前にフォノイコライザー(ケンブリッジオーディオ DUO-SLV)をかますとアナログプレーヤーで再生した音がオルトフォンのSPUクラシックGで聞いたような柔かい音になることがわかりました。そうして最近になって濡れタオルでレコードを拭けば音飛びしなくなることがわかり、ほぼ以前と同じような音で安心してアナログレコードが聞けるようになりました。レコードを濡れタオルで吹くのんは簡単なんか。お湯につけてしっかりと絞って、レコードの溝に沿って拭いて行きます。それぞれの面4回転くらいしてしばらく乾かして聞いています。CDは聞かへんのか。私はクラシック、ジャズ、ジャパンポップスのレコードが7、800枚あり、CDは300枚くらいでしょうか。アナログレコードは中年の頃までにお店であーでもないこーでもないと考えてひとつひとつ購入したもので懐かしさもあります。一方CDは最近になってアナログレコードの代わりの慰みとしてオンラインショッピングで購入したものがほとんどです。中には音飛びばかりで嫌になってしまうようなCDもあります。デノンの装置に問題があるのかもしれませんがほとんどのCDが安心して聞けません。それらのCDは小言ばかり言って世話が焼ける人の様です。安心して世間話を聞くようにゆったりくつろげるアナログレコードと比較してどちらがいいかは明らかでしょう。毎週、土日に10枚ほどタオルで拭いてきれいにしたアナログレコードを聞いて一回りしたら、ちょっとだけCDを聞こうかと今は思っています。寛ぐためには、名演を安心して聞けるアナログレコードで聞くのがベストというのに再び気付くために、12、3年間の暗黒時代を通り過ぎなくてはならず、やっと第二黎明期が訪れたという感じです。そうやな、不快な気分にさせるCDを聞くよりアナログレコードを聞いている方が精神衛生にもええと思うわ。これからはあんたの好きにしたらええんとちゃうか。