「レコード芸術」休刊を聞いて

「レコード芸術」が7月号(2023年6月20日発売)で休刊になることを知りました。アナログレコードファンの私にはデジタル録音の新譜が広告の中心になった頃から、このよきガイドブックを本屋さんで立ち読みすることもなくなりました。デジタル録音になってからも指揮者ではカラヤン、メータ、ショルティ、アバドなど、ピアニストではブレンデル、アシュケナージなど、ヴァイオリニストではパールマン、クレーメルなどの近況や彼らの新譜を見るためにレコ芸の立ち読みを続けていましたが、彼らよりずっと興味があったのはやはり1930年代から1970年代前半までに活躍した、指揮者ではフルトヴェングラー、ワルター、セル、オーマンディ、ミュンシュ、クレンペラー、バルビローリ、アンセルメ、リヒターなど、独奏者ではカザルス、フルニエ、シュタルケル(以上チェロ)、バックハウス、ゼルキン、ホロヴィッツ、グルダ、グールド、リヒテル、ギーゼキング、ケンプ、フランソワ、ルービンシュタイン、カサドシュ(以上ピアノ)、クライスラー、グリュミオー、シェリング、フランチェスカッティ、オイストラフ(以上ヴァイオリン)、ヴァルヒャ(オルガン)、ランパル(フルート)、ウラッハ、ド・ペイエ(以上クラリネット)、ブレイン(ホルン)、アンドレ(トランペット)などの歴史的名演のレコードを多数録音していた名演奏家と呼ばれる音楽家でした。彼らの技術はもちろん素晴らしかったのですが、それを支える録音技師の腕も確かで、デッカ、EMI、RCAは優秀録音盤を多数残しました。こういった名演奏家の廉価盤を、私がクラシック音楽を聴き始めた頃にたくさんのレコード会社が競って販売していました。このレコードという記録媒体がCDより音の質という点で遥かに優れているのは明らかなのですが、なぜかデジタル録音の利点とコンパクトさが強調されて、アナログレコードは衰退していきました。レコードジャケットが見劣りし(CDのジャケットを飾りたいと思う人はまずいない)、多彩な再生方法(お金があれば、アンプ、スピーカー、レコードプレーヤー、カートリッジなどの刷新が可能で大袈裟かもしれないが生きる喜びになると思います)ができず、すべてがCDプレーヤー頼みになる。私は、CDプレーヤーを今までに4台購入しましたが、最初のパイオニアのCDプレーヤーは高域と低域をカットした音に馴染めず数年で売り払いました。その後比較的低価格ということでデノンのを2台(うちひとつはハイレゾ)買ったのですが、こちらはいずれも頻繁に音飛びしたり、音が聞こえなくなったりするのでもっぱら中古のマランツのCDプレーヤーで聞いています。こちらもたまに音が聞こえなくなりますが、デノンよりずっとマシで我慢できます。今更アンプを買い替える(ステレオ装置を一からやり直す)ことができないので、10万円程したハイレゾは電気屋さんの言う通りにしなかった方がよかったと今では後悔しています。こういう機器でストレスがたまる(フラストレーションが生じる)ということはアナログ機器(レコードプレーヤーとカートリッジ)ではほとんどありませんでした。なぜCD頼みになったかと言うと、55才を越えたあたりからオーディオ機器にお金を掛けることが出来なくなり、それまで半年に1回買い替えていたオルトフォンSPUクラシックG(約10万円)をオーディオテクニカの3万円程のMMカートリッジに変えてからで、今までと全然違う深みのない音になってしまったからです。それから約7年間は音楽を聞く楽しみがなくなったさびしい日々でしたが、たまたまヨドバシカメラの方からケンブリッジオーディオのフォノイコライザーを使えば改善できると聞き、また頻繁に針飛びするのもレコードをお湯につけて絞ったタオルで拭くと解決できることを知り、3週間くらい前からアナログレコードばかりを聞くようになりました。わざわざCDの悪い音を音飛び・音消えがする悪いCDプレーヤーで再生するのは取るところがないと判断したからでした。話はレコード芸術に戻りますが、最初に購入したのは1979年12月号で、この号では廉価盤 名盤350選という特集があり、まだアナログレコードが主流だったのです。というかCDが製品化されたのが1982年10月でそれからSONYが主導してアナログレコードの居場所をCDへと置き換えて行ったのでした。1979年4月からクラシック音楽を聞き始めてガイドブックのような本はないかと捜していた私には、音楽之友社のレコ芸の特集と広告は本当に有難いものでした。それからしばらくして入手したレコード芸術の別冊で「レコ芸音楽史講座」の古典派の音楽とロマン派の音楽の上と下(1)の3冊は暇があれば見ていました(古本屋でロマン派の音楽中と下(2)があることを知り購入予定です)。また価格が1,300円プラス消費税の別冊クラシック・レコード・ブックも非常にお世話になりました(立ち読みが多かったのですが)。この本でどれほどたくさんの名盤を知ることが出来たでしょう。本当に感謝しています。CDがそうした名演奏家の名盤を新録音に置き換えて行くかと心配しましたが、ワルターやカザルスなどの演奏は現役の演奏家よりも優れていて今でも聞けば感動します。そういった名演奏家との橋渡しをしていたレコ芸が7月号で休刊になることでもう一度考え直してはと思うことがあります。現状を考えるとクラシック音楽を普及させ残していくためには、1930年から1970年頃に活躍していた名演奏家が残したものを聞く機会を増やすべきだと思います。そうしてその音をより良い音質でと考えるとCDプレーヤーをやめてアナログプレーヤーに高級カートリッジで聞くことが必須です。そうしないとますますCDプレーヤー頼みのステレオ装置で聞く音楽がつまらなくなり、ライヴや他の趣味へとクラシック音楽ファンが流れていくと考えます。音楽の内容さえよければ聞く人はいると考える方がおられるかもしれませんが、CDの音はどのように磨いても機械的に取り込んだ音なので、どう再生しても眼前での演奏の音にはなりません。テープで収録した音をアナログレコードにしないとスタジオマイクで拾う音そのものではないのです。