プチ小説「クラシックな宇宙人との四方山話」
福居は阪急高槻市駅で下車してカレー専門店ヴァスコダガマに行ったが、本日、定休日との掲示があり唇を噛んだ。
<餃子のまんしゅーは美味しいが量が多くて塩分が多めだから、最近血圧が上昇している私はやめといた方がいいと考えて今日はカレーを食べようと思ったんだが...そうだ、千日前河童拉麺はいつも混んでて入られないが、さっきちらっと見たら午後5時過ぎだから客が少なかった。今日は入れそうだぞ>
店内に入ると小柄な女性店員が福居に近寄り、カウンターでもテーブル席でもお好きなところにお掛けくださいと言った。福居が店内を見回していると、左側のカウンター席に座っている客が声を掛けた。
「ニイサン、アイテルカラココニカケタラエエヨ」
コエヲカケハッタノハ、最近、話す機会が多くなったM29800星雲からやって来た宇宙人さんだった。
「ああ、あなたもラーメンがお好きなんですね」
「ソレハチガウヨ。ココハキムチタベホウダイトカエダマムリョウガエエンヨ」
「そしたらそれを知らないでチャーシュー麵の大盛りと餃子2人前と鶏肉の唐揚げを注文すると大変なことになりますね」
「ソヤケドタンスイカブツガダイスキナアンタニハエエノトチャウ。ゴハンノウエニキムチヲテンコモリニシタリシテ。ソレハソウト、コノマエ、ベートーヴェンサンノ名盤ヲオシエテモウタンヤケド、キョウハヨハン・セバスチャン・バッハ(以下バッハ)ノ名盤ヲオシエテホシイノデス、ハイ」
「あまりにたくさんありすぎて...困ったな」
「サクヒンメイノレッキダケデモエエヨ」
「そうですか、それなら、私の興味があるものだけですが...マタイ受難曲、ロ短調ミサ曲、カンタータ第140番、カンタータ第147番、管弦楽組曲第1番~第4番、ブランデンブルク協奏曲第1番~第6番、ヴァイオリン協奏曲第1番と第2番、2つのヴァイオリンのための協奏曲、音楽の捧げもの、ゴールドベルク変奏曲、イタリア協奏曲、平均律クラヴィーア曲集、トッカータとフーガニ短調、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲、無伴奏チェロ組曲全曲などがありますが、この他にも一度はじっくり聴いてみたい曲が山ほどあります」
「バッハハショシンシャニハトッツキニクイントチャウノン」
「そうですね、いきなりマタイ受難曲や平均律クラヴィーア曲集を聞くのはお勧めしません。もちろん比較的短めの2つのヴァイオリンのための協奏曲を聞くのもいいのですが、バッハの作品の一部を取り上げているのを聞くというのがいい方法かもしれません」
「ソレハドウイウコトヤ」
「管弦楽組曲第3番のアリアはG線上のアリアとして単独で演奏されます。また無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番のガヴォットもしばしば単独で演奏されます。カンタータ147番「心と口と行いと生きざまをもて」の中の「主よ、人の望みの喜びよ」も有名ですね。私の場合もバッハ入門曲はG線上のアリアでした」
「ソヤケドソレラハ5フンホドノキョクヤロ。ソレデソノツギニブランデンブルク協奏曲第5番トカ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番全曲トイウノハシンドイントチャウ」
「そう考えるとしんどくなってしまうんですが、バッハの音楽は楽器の音を魅力的にするのでそれを楽しむと考えてレコードを選ぶのもいいのかなと思います。独奏曲が多くて旋律が美しく、ヴァイオリン、チェロ、オルガンの音が心に沁みる名盤がたくさんあります」
「ドンナンガアルノ」
「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータならシェリング、無伴奏チェロ組曲ならカザルス、オルガンならヴァルヒャと言われていますが、例えばゴールドベルク変奏曲ならチェンバロのレオンハルトだけではなく、ピアノ編曲のグールドも名演奏と言われています」
「シュウキョウキョクハドナイダ」
「カンタータ第140番と第147番から入るのもいいですが、マタイ受難曲をいろいろな演奏で聞くのもいいかと思います」
「マタイハ4時間チカクアルンヤデ、ワシハエンリョシトクワ。ホカニエエノンナイカ」
「やっぱりブランデンブルク協奏曲がいいと思います。第1番と第5番の華やかさ、第2番のトランペット、第4番のリコーダーの二重奏には癒されます」
「メモシトクワ、デモ第3番モエエトオモウヨ」
「私は思うんですが、ヴィヴァルディが好きなのはヴァイオリンが主役の曲が好きな人で、バッハが好きな人はヴァイオリン、チェロ、オルガンの独奏が好きな人と思っていて、通のクラシックファンは彼らの音楽をBGMにしながら読書に勤しまれるのだと思います」