プチ小説「宇宙人との対話 クラシックの四方山話編」

福居は仕事を辞めてからウイークデーは大学図書館に通って懸賞小説の原稿を書いているが、火曜日はクラリネットのレッスンを受けるために大学前から阪急烏丸駅近くにあるミュージックサロン四条に12番か52番か55番の市バスで行っている。今日は用事で市役所に電話を入れたために昼食(大学構内にあるお弁当屋さんを利用することが多い)を食べそびれてしまったので、レッスンの前に四条烏丸近くの日野屋に入ることにした。福居が注文した牛ホルカレーを食べて美味しいですねと若い店員に眼に涙を浮かべながら話し掛けていると、M29800星雲出身の宇宙人が店内に入って来た。
「ニイサントオナジノヲワシモタノムハ。ナミダヲナガスホドカンドウテキナアジナンヤロネ」
「いいえ、感動したのではなくて、はい、辛みそが効いていて涙が出てしまいました。でも美味しいです」
「ニイサンハゲキカラガスキナンカ」
「最近行かなくなったCoCo一番館でも2辛は食べませんでした。激辛ラーメンも食べたことはありません。私の場合、辛いのは腸管に良くないようですし」
「グタイテキニイッテネ」
「一時辛口のレトルトカレーばかり食べていた時があってすぐに痔になりました。それから内痔核ができたのに銀座のインド料理専門店で激辛ランチを食べたところ、悪化して膿瘍になりました。辛い食品は身体にいいと聞きますが、私の場合、カレーもラーメンも辛いのはやめといた方がよさそうです」
「ソウナンヤ、ソレモメモヲシトコ。トコロデ、ゼンカイ、カタスカシヲクッタ、モーツァルトノウンチクヲタレテホシイノデス」
「わかりました。鳥瞰的にやってみましょう。細部はとても無理ですし」
「スキニシテクダサイ」
「バッハと同じようにモーツァルトの名曲の鑑賞も短い曲から始めるのがいいのかもしれません。トルコ行進曲(ピアノ・ソナタ第11番の第3楽章)、交響曲第40番の第1楽章、クラリネット協奏曲第1楽章、フルートとハープのための協奏曲第1楽章、アヴェ・ベルム・コルプスなんかでモーツァルトの流麗な音楽の虜になればどんどんどしどし流麗な音楽を聞いて行けばいいと思います」
「ドンナノガアルノ」
「やはり最初に思い浮かぶのはディヴェルティメントK136~138です。その次は先に挙げたピアノ・ソナタ第11番、交響曲第40番、クラリネット協奏曲、フルートとハープのための協奏曲のその後の楽章を聞くのがいいでしょう。そうしてその後に聞くのは、モーツァルトのピアノ音楽を聞くのがいいでしょう。ピアノ・ソナタは第11番の他、第8番、第15番がいいと思います。ピアノ協奏曲で最初に聞くのは第21番がいいでしょう」
「ダイ2ガクショウガウツクシイヤンネ、エイガハウツクシクモミジカクモエヤッタネ」
「そうです、他にもモーツァルトのピアノ協奏曲には第2楽章が美しい曲があります。第20番、第23番、第24番、第27番は本当に素晴らしいです」
「コウキョウキョクハドウナン」
「第39番、第40番、第41番は三大交響曲と呼ばれ名曲と言われますが、他にも第35番、第36番、第38番が優れています。ですが重たい感じの交響曲を避けて軽やかな管弦楽曲であるディヴェルティメント、セレナーデを聞くのが賢明です。セレナーデ第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をまず聞いて、セレナーデの第6番、第11盤、第12番を聞いてから規模の大きなセレナーデ第9番、第10番、ディヴェルティメント第17番を聞くのも良いのでしょうが、先に 室内楽曲を聞いた方がいいのかもしれません。弦楽四重奏曲第14番~第23番、6つの弦楽五重奏曲、弦楽三重奏のためのディヴェルティメント、フルート四重奏曲第1番~第4番、クラリネット五重奏曲、オーボエ四重奏曲、ケーゲルシュタット・トリオなど枚挙にいとまがありません」
「モーツァルトノキョクハフカミガナイノンカ」
「ベートーヴェンの曲と比べると明るい曲は多いですが、そのようなことはありません。でもベートーヴェンもヴァイオリン・ソナタ第5番やピアノ・ソナタ第4番のような明るい曲を作曲していますし、モーツァルトもビアノ協奏曲第24番や弦楽五重奏曲第4番のような陰鬱な側面がある曲を作曲しています。それを探すのも楽しいかもしれません」
「オペラハドウデスカ」
「個人的に好きなのは、「魔笛」と「フィガロの結婚」ですが、時間があれば、「コジ・ファン・トゥッテ」「ドン・ジョバンニ」を聞いてみたいと思います」
「アンタガスキナン、ナンデモエエカラベストテンヲオシエテ」
「迷ってしまうのですが、「魔笛」とレクイエムは外せないでしょう。歌曲「すみれ」と「春のあこがれ」を選んで、インストゥルメンタル曲を選ぶわけですが、交響曲第41番、ピアノ協奏曲第21番、フルートとハープのための協奏曲、セレナーデ第10番、クラリネット五重奏曲、ピアノ・ソナタ第11番というところでしょうか。クラリネットの曲が好きな私はクラリネット協奏曲を入れたいところですが」
「サイゴニナイモノネダリヲシテエエカ」
「なんなりと」
「モーツァルトノキョクデクノウヲツキヌケテカンキニイタルトイウキョクハアルカ」
「弦楽五重奏曲第4番とアヴェ・ヴェルム・コルプスでしょうか。でもそんな苦悩の曲でもモーツァルトの場合、きらめきがあるのですが」
「ソウナンヤ。ソレモメモシトコ」
「私の知っている人で明るくて苦労知らずの人が作曲した曲だと決めつけて聞かない人がいましたが、それはモーツァルトの曲をじっくり聞いたことがないからで、例えばピアノ協奏協第27番のような天国的な調べであっても時には陰影が見られるということに気付くと思います。モーツァルトの曲を聞かないと一生悔いることになりますよ」
「ソウデンナ、アンタノイウトオリヤトオモウヨ」