プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編2」
福居は週に4、5回母校立命館大学の図書館で本を読んだり文章を書いたりしているが、昼からも図書館を2~3時間利用するので校内や近くの定食屋さんで昼食を取ることにしていて半分以上は西側広場近くのお弁当屋さんを利用する。福居が列に並んでいると、福居の後ろにM29800星雲からやって来た宇宙人が並んだ。福居はきんぴら豚肉弁当を買い終えてその場にいたが、宇宙人が福居に、ドレガオイシインヤと尋ねたので、味噌カツ、和風ハンバーグ、ヤンニョム唐揚げ、中華弁当どれも美味しいですよと答えた。
「オイシインヤッタラ、ソレヲ10コズツチョウダイ」
福居は弁当屋が困らないように言った。
「ここは利潤の追求はしてなくて、はい、生徒のためにあるのです」
宇宙人は左手を脇の下にあて右手で右の眉毛をこすりながらしばらく考えていたが、
「オバサン、ソレヤッタラキュウコズツニシテ」
と遠慮して言った。
福居は宇宙人が支払いを終えると言った。
「今ここで食べられるんですか」
「ソウヤデ、ワシハアンタガヒルヤスミノマエニココデヒトリサミシクタベトルノヲシットルンヤ。ソレヲキノドクニオモウタンヤ。ソヤカラキタンヤデ」
「ひとり寂しくということはではないんですよ、以前は12時頃にここに来ていたんですが、利用者が多いので遠慮しているんです」
ふたりは藤棚の下に掛けると弁当を食べ始めたが、福居が弁当を食べ終える頃にはM29800星雲からやって来た宇宙人も36個の弁当を食べ終えていた。
「ハラゴシラエモオワッタカラ、ブラームスノハナシヲシタッテ」
「この前、私はショパンがいいと言ったので...」
「エエカラ、キョウハブラームスデイコ」
「そうですか、やはりブラームスと言えば、重厚な交響曲4曲とピアノ協奏曲2曲とヴァイオリン協奏曲がおススメです」
「ワシハジュウコウナンハチョットニガテナンヤ。ブラームスハシツナイガクニエエノガヨウケアルンヤロ」
「そうですね、でもぼくは弦楽四重奏曲やピアノと弦楽合奏との室内楽曲には推薦できるのがありません」
「ホタラ、ナニガエエノン」
「弦楽六重奏曲第1番、クラリネット五重奏曲、ヴァイオリン・ソナタ第1番~第3番、チェロ・ソナタ第1番と第2番、クラリネット(ヴィオラで演奏されることもあります)・ソナタ第1番と第2番はいずれも素晴らしいです」
「ブラームスハガッショウキョクモエエノンタクサンアルヤロ」
「そうですね、その最高峰がドイツ・レクイエムですね。歌曲も「雨の歌」(これはヴァイオリン・ソナタ第1番の第3楽章のテーマになっています)などいい曲があるし、合唱曲にも素晴らしいものがたくさんあると聞きますが、今までじっくりと聞く機会がありませんでした。すみません」
「アヤマルコトナイヨ。ダレニモスキキライ、エテフエテ、トクイフトクイハアルモンヤ。ガッショウノタノシミヲアンタハシランノヤカラ、コールユーブンゲン(ヴェルナーが刊行した「合唱練習書」)ノイッキョクモシラヘンヤロ」
「知りません」
「ワシモソウヤネン」
「じゃあ、このことは水に流しましょう」
「ソウソウ、ミズニナガシテネ」
「でも、私がクラシック音楽にのめり込んだ切っ掛けはFM放送でブラームスの交響曲第1番を聞いたこと、ヴァイオリンの音色が美しいと感じたのは、交響曲第2番やヴァイオリン協奏曲を聞いたから、楽器を習ってみたいと思ったのはクラリネット・ソナタ第2番を聞いたからなので、ブラームスの音楽にはいろいろなことにめり込ませる作用があるとも考えられます」
「ソウヤネ、ホカニモハイドン・ヴァリエーション、ワルツ、インテルメッツオオーパス118-2ナンカモジーントココロニシミルキョクヤワ」
「私は最近渋谷の名曲喫茶ライオンでバルビローリ指揮ウィーン・フィルで交響曲第2番と悲劇的序曲を聞いて感動しました。ブラームスは今日はどの曲を聞こうかと迷った時に最初に浮かぶ作曲家です。というのも彼の作品の多くには人を感動させたり、その技巧に魅せられる要素がたくさん含まれているからです」
「ウツクシイダケヤナクテ、ハイ、ココロニシミルエエキョクヲツクリヨッタ。タクミノワザノサッキョクカチューワケヤネ。エエコトキイタカラメモシトコ」