プチ小説「伊吹山星空観測会で今年こそ 2」
福居は7月15日の星空観測会に参加して伊吹山山頂近くの駐車場まで湖国バスで行ったが、満天の星空は見られなかった。帰りの最終の新快速の出発時刻は午後9時34分、バスがJR米原駅に到着して15分も経たないうちにその新快速は発車した。
<午後6時30分頃にバスが山頂に着き、7時から星空観測会の担当の人が惑星、星座の解説などをしてくれたが、暑い雲が天蓋を覆い銀河や惑星どころか星も8時10分頃に5、6個見られたくらいだった。その後、バスの運転手さんから星空観測会のことをいろいろ教わったが、満天の星空が見られるのは10回に1回くらいのようだ。明日は雲だけでなく水蒸気も雲散するのでその10回に一度の日になると言われていたが、予約を入れていないし、明日深夜帰りになると計画している祇園祭の山鉾巡行の撮影に行かれなくなる。運転手さんは雨でなくて良かったと言われたが、ちっちゃなスクリーンに映し出される惑星や星座の絵を見に来たわけではないので、よっぽど、ちっとも良くないですと言いたかったが...運転手さんは予約をキャンセルをしてもキャンセル料は取られないので、満天の星空を見たいならたくさん予約されるのがよいと言われた。それにしても奈良県五條市星のくにの担当者はガイド撮影をする時に月が明るいと良い写真が撮られない。三日月より大きな月の時は星空観測には向いていないと言われたのだが、湖国バスの運転手さんは、満月で月が明るくて星空観測ができないというのは聞いたことがない。月の明るさは気にしないでよいと言われた。どっちの言うことが正しいんだろう。次回は8月19日を予約しているが、晴天の日で日程調整が可能なら追加で例えば8月5日に出掛けてもいいのかなと思っている>
福居がそんなことを考えながらにたにたしていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が向かいの席に腰掛けた。
「キョウハコンナテンキデザンネンデシタ。ジカイニキタイシマショウ」
「谷さんはそう思うことが出来るでしょうが、ぼくには時間がありません」
「ネンニ2カイサンカシタトシタラ、10回ヤッタラ5年デマンテンノホシゾラガミラレルトイウコトニナリマス。ソレマデマッタラエエネン」
「今、ぼくは64才ですから、5年後には70才のちょっと手前です。それまで、満天の星空が見られる、わー、嬉しいっ、ルンルンという気持ちが持続しない気がします。ひとつの過程を早く通過したいのです」
「ソンナコトヲイッテモ、サイキン、マナツニスカットハレルヒガスクノウナッタカラネ。シャアナイヤン」
「確かに湖国バスの運転手さんも夏の快晴の日は少ないと言われていました。真冬は快晴が多いようですが、その頃は雪と寒さでここには来られないと言われてました。7月から8月に18日ある星空観測会で何とか満天の星空が見られる日があるように祈るしかありません」
「ホンデモ、ヨヤクシテナカッタライカレヘンノヤロ。ハヤイトコ、オサエトイタホウガエエヨ」
「そうしたいところですが、夏には淀川と弁天さんの花火大会があります。8月19日の予約を取ったのはかぶらないからなんです」
「ソウカハナビタイカイノサツエイカ。コチラモオカネガカカランカラアンタニピッタリヤネ。ソシタラ、8ガツ19ニチガアカンカッタラ、ライネンマタガンバッテネ」
そう言って、谷さんは胸を張って両腕を上げるとしゃっと言ってM29800星雲に帰ろうとしたが、列車の天上にぶつかって福居の上に落ちて来た。谷さんは言った。
「アナタハテンジョウヲツキヤブレバエエノニトオモウカモシレヘンケド、ソヤナイノヨ。テンジョウハカミサンヤトオモウテ、ソレヲドウヤッテミンナガナットクデケルヨウニモンダイカイケツスルノカカンガエルネン」
「じゃあ、今のようになったらどうすればいいのですか」
「ソレハモチロンツギノエキデオリルノガエエノヨ。ユーシー」
「アイシー」
谷さんは次でぼくは降りるからさいならと言って降車口に向った。