プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編3」

福居はクラリネットを習うために阪急烏丸駅近くにあるミュージックサロン四条に月に3回行っているが、レッスンの日の夕ご飯は阪急高槻市駅近くのぎょうざの満州高槻店で済ませることが多い。
<この前は店の入口近くで空調が効いていなかったので、辛口五目ラーメンとやみつき丼を食べたら、サウナに入ったみたいに全身汗だくになった。それでも懲りずにぼくはここに足を運ぶんだから>
そう言って、福居がメニューを見ているとM29800星雲からやって来た宇宙人が隣に座った。
「ココハナニガオイシイノン」
「ああ、谷さん、あなたはまた人が1週間かかって食べる料理を一度に食べるのでしょうが、この前のように太鼓まんじゅうを箱に入れたり、弁当を積み上げるわけには行きません。このテーブルだと10皿置くのが限界です」
「ソンナコトハナイヤロ。キニセンデエエカラ。ココノオイシイリョウリヲオシエテ」
「そうですか、ぼくが好きなのは、やはり中華飯、麻婆豆腐、炒飯、やみつき丼、レバニラ炒め、青椒肉絲、天津飯、茄子と野菜のみそ炒め、回鍋肉、坦々麺ですね」
「オマエソレイッペンニタベルンカ」
「まさか、だいたいそのうちの2つを選んで食べています」
「ホタラ、チャーハントテンシンハントカカ」
「うーん、ご飯好きだったらそれもありでしょうが、ぼくの場合一番多いのは中華飯と麻婆豆腐でしょうね」
「アンタガチュウモンハホドホドニトイウンヤッタラ、炒飯、麻婆豆腐、回鍋肉、担々麵ヲ10ニンマエズツニシトクワ」
「それでも〇〇〇〇ハンターのようです。総重量は何キロになるんでしょうか」
「ソンナコトハキニセンデ、アンタハクラシックノメイバンノカイセツヲシテクレタラエエノ。キョウハショパンノメイバンノハナシヲシタッテ」
「わかりました。ところで、谷さんはショパンの曲はどれがお好きですか」
「ヨク、アイラシイキョクガスキヤネントイウヒトガオルケド、ワシハヤッパリ20フンイジョウヤナイトキイタキガセエヘンネン。ホヤカラ、ピアノ・ソナタダイ2バン「ソウソウ」、2ツノピアノキョウソウキョク、チェロ・ソナタトイウコトニナル」
「ぼくは葬儀の時に使われるピアノ・ソナタ第2番「葬送」は聞きません。2つのピアノ協奏曲はどちらも美しい曲ですが、ピアノの独奏曲ばかりを作曲していたショパンにオーケストラの部分の楽譜が書けたのか(作曲できたのか)疑問に思うので、ショパンの作品として認めてよいのか迷います。すばらしい曲だと思いますが」
「練習曲集、前奏曲集、ワルツ集、ノクターン集、バラード集、スケルツォ集、ポロネーズ集、マズルカ集トイロイロキョクシュウガアルケド、ゼンキョクキクノハシンドイワ。「別れの曲」「ノクターン第2番」「バラード第1番」「前奏曲雨だれ」トカユウメイナキョクガヨウケアルケド、ゼンキョクキクノハシンドイ。ソヤケドコレダケデハモノタラン。ドウシタラエエンヤロ」
「ぼくのおすすめは全曲盤の名演奏を何度も聞いて好きになることですね。それから何度聞いても好きになれない演奏は聞かないことです」
「サキニキカントッタホウガエエノヲオセーテ」
「ポリーニはやめておいた方がいいでしょう」
「ナンデヤノン。ミンナエエッテイウケド」
「ぼくはいろいろなレコードを聞いて来たのですが、名盤にはここいいなというポイントがあります。ところがポリーニにはそれがありません。テンポを微妙に変えて感情の起伏に富んだ演奏にしたり、ピアノの音色を変えたり、極端に早く演奏したり。いろいろやりくりするのですが、それがまったくありません。同様のことがアルへリッチにも言えると思います。ふたりともきちんとした演奏だと思いますが、感動的であったり、心に沁みたりすることはありません。レコードを聞いた後に残るものが何もないのです」
「ワカッタ。ソシタラツギハエエノンイウタッテ」
「練習曲集はコルトーが一押しですが、アシュケナージもいいと思います。前奏曲集もコルトーですね。ワルツ集はおなじみのリパッティ。ノクターン集はフランソワとルービンシュタインそれから一時よく聞いたフー・ツォンもいいと思います。バラード集もコルトーが一押しです。スケルツォ集はアシュケナージですが、マズルカ集は一時よく聞いていたカペルがいいか迷うところです」
「フランソワハドレモタカイスイジュンノエンソウヲシトルントチャウノン」
「そうかもしれませんが未聴です。フランソワが演奏するバラード集とスケルツォ集はなかなか良かったのですが、マズルカ集は聞いていないので何とも言えません。フランソワもマズルカ全曲盤(全51曲)のレコードがあるようですが、地味な小品が多いマズルカ集をわざわざ通して聞くかどうかです。明るい気持ちになるワルツ集、超絶技巧のバラード集、バラエティに富んだ前奏曲集なんかは毎日でも聞きたいところですが、ポロネーズ集と同様にマズルカ集はなかなかレコードを手に取ることはありません。ポロネーズ集のいい曲は英雄ポロネーズだけですが、マズルカ集にはいい曲がたくさんあります。特にカペルの2枚のアナログレコードに収録されているマズルカは素晴らしいです。コルトーのショパン演奏のCDの音がある程度聞けるものであればいいのですが、酷い音のCDを聞いてコルトーのショパン演奏を聞くのが嫌になると行き詰るので、リパッティのワルツ集、フランソワやルービンシュタインのノクターン集なんかを聞いてまずショパンの大ファンになるのがいいのかもしれません。そしたらコルトーのCDの音がかぼそくてノイズが多くても、最後まで聞くのを我慢できるでしょう」
「ジョウケンガワルクテモ、キョショウノメイエンヲキイテミタイトイウキモチニナルワケヤネ」