プチ小説「こんにちは、N先生 63」

私は基礎疾患があって1ヶ月に一度近医を受診するのですが、その日は別の用事もあって受診後に阪急高槻市駅とJR高槻駅の間を行ったり来たりしました。ようやく用事を終えて時計を見ると午前11時40分だったので、昼食を取ることにしました。最初に浮かんだのはぎょうざの満州でしたが、このところ最高気温が36度以上の日が続いているのに入口近くの空調が効いていないので他にすることにしました。次に浮かんだのは松屋でしたが、昨日回鍋肉を食べたので本日はやめました。久しぶりにCOCO一番館に行こうかと思いましたが、あまりに値段が高くて辛いだけなのでヴァスコダガマが開いていて空いていたらそこにしようと思いました。午後0時を過ぎると行列必至なのですが、11時45分だったので、10程の座席の3つが埋まっているだけでした。私は大盛りも小盛りも同じ値段のビーフカレー(800円)大盛りを頼みましたが、すぐ後に店内に入って来て私の隣に腰掛けた60代くらいのおばさんが大盛りも小盛りも同じ値段の焼きホルモンカレー(1300円)の中盛りを頼んだので、牛ホルカレーが好きな私はそれにしたら良かったなと思いました。でも私の場合、ホルモンが良く焼かれていないと歯肉炎になるので(日乃屋では3回痛い目に遭いました)、まあ普通のビーフカレーでいいかと思いました。ヴァスコダガマは関西の名店のレトルトカレーが出ていて存在を知り行くようになったのですが、味が良くほどよい辛さで大盛りでも同じ値段の800円なのでよく利用します。私がカレーを食べ終えて、千日前河童拉麵の前を通りかかるとN先生が店から出て来られました。N先生は、ぼくはいつも千鳥格子の冬物の背広を着ているから真夏はぎょうざの満州には行かないで、クーラーが効いているここで食べるんだ。麺の追加も無料でお得感があるからねと言われました。N先生が、外は暑いから駅の向こうにあるホリーズカフェであんトーストを食べながらアイスコーヒーを飲まないかと言われたので、私はそれがいいですねと言いました。
「それにしてもここのところの暑さは異常だね。昨日、京都の最高気温が38、9度だったらしいが、京都で40度を越える日も近いんじゃないかな」
「京都より大阪の方が先なんじゃないですか。今までの最高が浜松と熊谷の41、1度のようですが今年はどっかで更新されるんじゃないでしょうか。1933年7月25日に山形市で40、8度が記録されて70年以上更新されなかったのですが、最近は日本のどこかで40度以上の気温になってもうんざりした顔をするだけで驚きはないですね。ヨーロッパやアメリカでも気温が高くなっていますし山火事が世界中で発生していますし、この傾向はどこまでも続きそうですよ」
「ぼくは「ほんまあつおすなぁ」と上品に言っていた舞妓さんがそれどころでなくなって、「毎日ぎらぎらどすなぁ」と言うようになるんじゃないかと心配してるんだ」
「そうですね、思わずそう言ってしまいそうになるほど、今年の京都が暑いのは確かです」
「ところで、ようやく『黄色い風土』を読み終えたようだが」
「ええ、本分が750ページもあって、色々用事があったので5日程かかりました。でも面白い小説でした」
「最後のところ(50ページ程)をバラしてしまうとこの小説の楽しみの半分以上が消失してしまう。だからそこのところは回避して感想を言った方がいいと思うよ」
「そうですね。「大佐」というのが怪しいと思うのですが、そうではなくて意外な人物がすべての犯罪をやっていたのですから驚きです」
「最初、新婚夫婦の不審な行動から主人公の新聞社で発行している週刊誌の記者若宮四郎が身近で起きた自殺が事件性があると思うんだが、編集長の許可を得て事件の調査を始める。交通費や宿泊費も会社に負担してもらって、北は北海道、南は名古屋まであちこち出掛けている。松本清張の場合、新聞や雑誌の記者がたまたま事件に出くわして事件を究明する推理小説が多いが、警察以外の人が主人公の場合にはいろいろ限界がある。刑事が推理をして真相究明をする場合はかっちりした解決がなされ悪人が処罰されることになりスカッとするんだが、一般の人が主人公になって謎解きをする場合には、この小説のようにちゃんと謎解きはされるが、記者とかだとこの後どうなるんだろうという終わりになることがしばしばある。それでも、面白かったと思わせるだけの内容はある」
「この小説の最後は若宮が犯人と富士山青木ヶ原の自衛隊の演習場で対決?することになるのですが、なぜか8人もの人を殺めた犯人がユーモラスで、間が抜けていて、しばしば「はははは」と笑うのはとても変な気がしました」
「優越感からそのような犯人の態度になったのだろう。でも若宮の反撃に遭い、犯人は窮地に追い詰められる。若宮もそうなるが」
「それから先は読んでのお楽しみでいいと思います。最後にこのタイトル『黄色い風土』についてですが」
「最初はもっと長大な『黒い風土』だったが、大分割愛したところがあったらしい。「黒い風土」というのは犯人や奥田大佐が暗躍した場のことを言っているのだと思うが、それがなぜ黄色になったのかと思う。犯人に少しおばかキャラのところがあるし、内容も変わっているので、思わず、「黄色で行こう」となった気もするが、本当のところは『眼の壁』のタイトルと同じでよくわからない」
「黄色で連想するのは緑、黄、赤の黄色つまり危険信号が出ているという意味も考えられます」
「それが正しいのかもしれないが、ぼくはおばかキャラが出て来るから黄色いという解釈の方が好きだな」