プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編5」

福居は週に4、5回母校の図書館に行くが、四条烏丸駅で降りてすぐに市バスで立命館大学に向かうのではなく、その前に錦烏丸のホリーズカフェでコーヒーを飲むことにしている。先週までは熱いのを我慢してホットコーヒーのLサイズを注文していたが、最高気温が37度以上の日が続いたので、ここのアイスコーヒーも美味しいらしいと言ってアイスコーヒーに切り替えた。福居はこの日寝坊をして朝ご飯を食べられなかったので、つぶあんトーストも一緒に頼んだ。アイスコーヒーと番号札を持ってテーブルに行こうとすると、いつの間にかすぐ後ろに並んでいたM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガオイシインヤ」
「そうですね、みなさんが良く注文されるのは、コーヒーとトーストのセットですね。今の時期だとアイスコーヒーがいいと思います。トーストセットはつぶあんの他、タマゴサンド、ゆで卵付き、目玉焼き付きがあります。ホットケーキホイップも美味しいです」
「ソウカ、ワカッタ。アイスコーヒーヲノミタインヤケド、ピッチャーニイレテクレヘンヤロカ」
「多分、20杯位飲まれるので、ピッチャーがいいのだと思いますが、ビヤガーデンのビールのようには行かないと思います。ご面倒だと思いますが、テーブルも小さい(ティーカップとお皿1枚位しか置かれません)ですし、アイスコーヒーを飲んだらおかわり、つぶあんトーストを食べたらおかわりという風にされるのがいいと思います」
「ソウカ、シャーナイケド、ソレデイクワ。トコロデ、キョウモクラシックノハナシヲシテクレルンヤネ」
「そうですね、でも、古典派のモーツァルト、ベートーヴェン、ロマン派のシューマン、シューベルト、ショパン、ブラームス、メンデルスゾーンについてお話したので、次はベルリオーズ、フランク、ドビュッシー、ラヴェル等のフランスの音楽家、ロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニ等のイタリア歌劇、ワーグナーの歌劇、グリーグ、スメタナ、ドヴォルザーク、シベリウス等の東欧、北欧の音楽、チャイコフスキー、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、ボロディンのロシア音楽あたりだと思うんですが、どの作曲家についてお話ししたらいいですか」
「ソノマエニ、ハイドンシタホウガエエノントチャウカ」
「うーん、ハイドンですか」
「アンマリ、ヤリタナサソウヤナ」
「そうですね。ハイドンは交響曲の父、弦楽四重奏曲の生みの親と言われていて名曲もいくつかあります。ピアノ・ソナタも名曲がいくつかあります。2つのチェロ協奏曲も名曲ですし、オラトリオ「四季」と「天地創造」も壮大な音楽史に残る大曲と言われています。ですが、私が本腰を入れて聞くのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団とイタリア四重奏団の弦楽四重奏曲第77番「皇帝」と同第78番「日の出」くらいでしょうか」
「コウキョウキョクノチチヤネンカラ、スコシハエエノンアルントチャウン」
「私もそう思って、「驚愕」「時計」「ロンドン」「太鼓連打」などを何度も聴いてみましたが、駄目でした」
「ダメッテドウイウコトヤネン」
「心に響かず、その曲を再び聞こうと思いませんし、私の場合、楽曲を聞いて面白かったり楽しかったりすると、興味の連鎖というのが生じて、例えば、この交響曲も面白そうだから聴いてみようとなるのですが、そういうことが一切ない作曲家なのです」
「ココロヲウゴカスセンリツガナイノカ」
「そうですね、「皇帝」と「日の出」は例外として。2つのチェロ協奏曲はなかなかいいのですが、目立たない存在です」
「ソシタラ、ハイドンハオンガクシニナヲノコスサッキョクカトチャウンカ」
「いえいえ、交響曲と弦楽四重奏曲の形式を確立しました。それでその後にモーツァルトとベートーヴェンが花を開かせるのです。協奏曲もハイドンがいろいろ試行錯誤して作曲して、後世の作曲家に影響を与えています。その辺りの詳しいことまでうまく解説できませんが、とにかくハイドンがいなければ、きっとモーツァルトもベートーヴェンも交響曲、弦楽四重奏曲のきちんとした格調の高い作品は残せなかったと思います。だからパパ・ハイドンとして敬って、彼が後世の作曲家に影響を与えたいくつかの作品を取り上げて演奏するのだと思います」
「「時計」ヤ「驚愕」ガオモシロクナイトワシハオモウネンケド、アンタハドウオモウ」
「そうですね、時計の音を連想させたり、びっくりする楽章以外は面白くないです。アナログレコードを再生できる高級オーディオ装置で再生したら、思わぬ発見があってハイドンが好きになるかもしれませんが、家の凡庸なオーディオ装置ではその良さは発見できていません。でもハイドンを聞く時間があったら、モーツァルト、ベートーヴェン、ロマン派の音楽を聞いた方がええよと言いたいところです」
「ソンケイハスルケドサクヒンハスキデハナイトイウコトカ」
「あからさまに、露骨に、忌憚なく、遠慮なく、情け容赦なく言うとそうなります」