プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編6」

福居は今から30年程前まではインスタントラーメンしか食べたことがなかったが、関西ウォーカーという情報誌でラーメン店の特集が組まれ気になるラーメン店に行くようになった。福居は凝り出すと切りがない性格なので、いつしか週に2回はラーメン屋で晩御飯を食べるようになった。最初に痛風の発作が出たのは、それから3年程してからだった。痛風はしばしば彼を悩ませて、片脚の第1趾周辺から足の裏全体と広がって行った。10日程発作の激しい痛みが続くのである。福居は10日ほど続く激しい痛みに耐えて(彼は楽しみのために少しは苦労が必要と考えていた)ラーメンを完食(福居は汁を全部飲まないと店主に申し訳ないと思っていた)していたが、今から15年程前に痛風の発作が出てから40日経っても右膝が5センチ程腫れあがったままで痛みも一向に治まらないということがあった。その時たまたま飲んだクエン酸飲料のお陰で腫れと痛みはなくなったが、それ以後福居は用心深くなり基本的に外食拉麺をやめて万一痛風発作が出た時には切り札としてそのクエン酸飲料を飲むことにした。40日も痛みが続きその間満足に睡眠を取れなかった彼はもう外食拉麺はこりごりと思ったのだった。それでもそれから10年程して彦根で野菜タンメンを食べて非常に美味しかったので、神戸のラーメンたろうと天下一品だけは月に一度はこの限りにあらずとして食べるようになった。ただし以前のようにスープを飲み干すことはしなくなった。福居は四条烏丸でしばしば飲食店探しをするが、たまたま天天有の支店を見つけて、月に一度くらいクラリネットのレッスンを受けた後に定番ラーメンの中盛りと餃子2人前を食べるようになった。定番ラーメンは天下一品のこってりラーメンと同じような味だし、薄皮の餃子をからし味噌に付けて食べると最高に美味しいからだった。福居がいつものように定番ラーメンの中盛りを頼んで餃子を一人前にしようか二人前にしようか迷っていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居の隣に腰掛けて声を掛けたのだった。
「ヨクボウハオサエタラアカンヨ。アトデウナギノヨウニアバレヨルカラ。トコロデココハナニガオイシインヤ」
「いろいろあって一度は食してみたいのですが、定番ラーメンと薄皮餃子をからし味噌に付けて食べると美味しいので、他を食べたことはありません。ですが、定番の鳥白湯ラメーン以外の黒(醤油)ラーメン、鶏塩ラーメンも食べたいと思っています。サイドメニューの丼物も食べたいのですが、ラーメンの1.5倍盛りと餃子を食べるだけでお腹いっぱいになって満足してしまいます」
「ソウカ、ホンナラワシモ定番ラーメンノオオモリトギョウザヲ10ニンマエオネガイスルワ」
「いつもほど食欲がないのですか」
「アンシンシテ、醬油ラーメント塩ラーメンモアワセテ10パイアトデタノムカラ」
「そうですね。衝立で仕切っていますし、ラーメンの鉢と餃子の皿位しか置けないですよね」
「トコロデイツモノヨウニクラシックオンガクノハナシヲシテホシイネン。キョウハイタリア・オペラトドイツ・オペラトイウオダイデヤッテホシイネンケド、ドウカナ」
「そうですね、私の場合は熱心なオペラ・ファンと言えませんから、イタリア・オペラ、ドイツ・オペラそれからモーツァルトのオペラを一緒にひっくるめて説明させていただきましょう」
「モーツァルトハイタリア・オペラモドイツ・オペラモサッキョクシタンヤネ」
「もっと詳しく言うとイタリア・オペラはオペラ・セリアとオペラ・ブッファに分けられ、モーツァルトの場合、オペラ・セリアとして「皇帝ティートの慈悲」、オペラ・ブッファとして「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」を作曲しています。ドイツ・オペラも歌ばかりのものと語りの部分があるジングシュピールとに分けられますが、「後宮からの誘拐」「魔笛」はジングシュピールに入ります。この中で私が好きなのは「魔笛」と「フィガロの結婚」で、「ドン・ジョバンニ」は余り好きではありません」
「シュヤクガアクニンダカラナンカ」
「いいえ、通して何度か聞いたことがあるんですが、心惹かれる旋律がないのです。インストゥルメンタル曲と同様にオペラもどれだけ美しいメロディで酔わせてくれるかだと思うんですが、「ドン・ジョヴァンニ」にはそれがありませんでした」
「マア、ヒトノコノミハソレゾレヤカラネ。ツギハイタリア・オペラカナ」
「そうです、でも私はイタリア・オペラを余り聞いていないので、ロッシーニ、ヴェルディとプッチーニの代表作についてだけ説明します。ロッシーニは「セビリアの理髪師」に尽きるのですが、これはレコードだけではもったいないので、アバド指揮のDVDを見ることをお勧めします」
「ヴェルディハヨウケオペラヲサッキョクシトルケドナニヲキイタラエエノン」
「ヴェルディはシェイクスピアの作品をもとにしてオペラを3つ作曲しています。「オテロ」「マクベス」「ファルスタッフ」ですが、主役の個性が強すぎるためか好きになれません。正直なところは「オテロ」と「マクベス」は一度も聞いたことがないのです。最後のオペラ「ファルスタッフ」は魅力的なメロディがなく一度聞いただけです。やはり、「トロヴァトーレ」「椿姫」「アイーダ」「リゴレット」「ドン・カルロ」あたりをお勧めしたいところです。実際のところは、ヴェルディは「トロヴァトーレ」と「椿姫」だけでよいと思うのですが。一時、アバドが指揮したレコードをいくつか購入しました。「シモン・ボッカネグラ」「仮面舞踏会」「アイーダ」は心惹かれる場面はあるのですがそれが続かないので...いつも「シモン」の最初のところに惹かれるのですが」
「「まくべす」ト「どん・かるろ」ハドウナン」
「「マクベス」は多分今後も聞かないと思います。「ドン・カルロ」はカラヤンのDVDが面白かったので、LPレコードもほしいのですが入手できていません」
「プッチーニハ「ぼえーむ」ガエエントチャウ」
「未完の「トゥーランドット」と「蝶々夫人」はなかなか聞く気になれません。「マノン・レスコー」「西武の娘」も同様です。やはりプッチーニは「ボエーム」」と「トスカ」でしょう」
「アンタハムカシLPレコードコンサートデカラヤントデ・サーバタシキノ「トスカ」ヲイッキニキイテモラッタコトガアルケド、「トスカ」スキナン」
「確かに「トスカ」レコードを2セット続けて聞いていただいたことがありますが、目的はマリア・カラスを一度聞いていただきたかったからです。LPレコードコンサートでは、他にワーグナー「タンホイザー」、モーツァルトの「魔笛」と「フィガロの結婚」、プッチーニの「ボエーム」、ヴェルディの「トロヴァトーレ」を取り上げています」
「ノコルハワーグナーヤケド、「タンホイザー」ダケナンカ」
「「パルジファル」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」「トリスタンとイゾルデ」「さまよえるオランダ人」「ローエングリン」はいずれも通して聞いたことがあるのですが、もう一度聞いてみたいと思いませんでした。「ニーベルングの指輪」4部作はメータのDVDを見ただけですが、面白いなと思いました。名曲喫茶ヴィオロンのマスターのお話では1955年のバイロイト音楽祭でカイルベルトが指揮した「ニーベルングの指輪」が一番いいということですので、いつかアナログレコードで聞いてみたいと思っています」
「アンタハコレカラモインストキョクノアイマニオペラヲキクンヤネ」
「そうですね、オペラのレコードを立て続けに聞くことはないでしょう。それにオペラの名盤と言うのはインストゥルメンタル曲のそれと比べるとごくわずかだと思いますよ」