プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編7」

福居は母校の図書館で本を読んだり文章を書いたりする時には、昼食代は極力節約している。一番安くて便利なのが西側広場の近くの弁当屋さんを利用する場合で、理由としては、和風ハンバーグ弁当、ヤンニョム唐揚げ弁当、中華弁当(おかずはシューマイ、餃子、エビチリ カラシと醤油付き)のいずれもが507円で食べられ、しかも美味しいからだった。しかしその弁当屋さんは7月26日から(9月末まで休業)お休みに入ったので、福居は弁当屋さんが休みの間は、いずれも立命館大学から5~10分程のハイライト食堂、松屋、なか卯のいずれかを利用することになる。松屋はうなぎ弁当など美味しいメニューがある期間だけ利用し、なか卯は3つの中で一番近く北門を出て3分程で行けるので、雨の日などに利用している。3つの中で一番利用することが多いのはハイライト食堂で、弁当屋さんが閉まっている期間は週に3回利用することもある。メニューは定食(焼肉、ビーフカツ、和風ハンバーグ、2食(白雪(大根おろし醤油)とデミグラスチーズソース)チキンカツ、若鳥唐揚げ、三色フライ、ミックスフライ、2食ジャンボチキンカツ、シーフードフライ、コロッケなど)の他、カツ鍋などの鍋物、他人丼などの丼物、カツカレーなどがある。福居はほとんどいつも2食チキンカツ定食ライス小(30円安い)を頼むが、若い女性の店員にそれを注文をして隣を見るとM29800星雲からやって来た宇宙人が腰掛けてメニューを見ていた。
「ココハナイガウマインヤ」
「私は2食チキンカツがお勧めですが、谷さんの場合は2食ジャンボチキンカツ定食の方がいいかもしれません。今の時期は湯引きした豚肉をゴマダレとポン酢ダレでいただく定食があります。ボリュームたっぷりでハクサイとキュウリのキムチも付いていますのでお腹が一杯になります。丼物、カレーライスも美味しいですよ」
「ソウカ、ソレヤッタラワシハユビキシタブタニクトギョウザナベトタマゴドンブリトカツカレーヲタノムワ」
「多分、そのくらいならテーブルに乗っかると思います。でもそれだと赤だし味噌汁が3つつくのかな」
「コンナニアツイヒガツヅクトエンブンホキュウモダイジヤデ」
「そうですね、それにきっと谷さんは追加注文をされるんでしょうし」
「トコロデ、キョウモクラシックオンガクノハナシヲシテホシイネンケド、キョウハフランスオンガクカナ」
「東欧、北欧、ロシアの作曲家でもいいですが、グリーグ、ドヴォルザーク、シベリウス、チャイコフスキーなんかは他の作曲家と一緒に説明するのはもったいない気がします」
「ソレデモ、フランスオンガクイウタラ、ベルリオーズ、フランク、フォーレ、サン=サーンス、ドビュッシー、ラヴェル、ビゼー、ルーセル、プーランク、サティ、デュカスナンカサッキョクカガヨウケオルヤン」
「フランクの交響曲とヴァイオリン・ソナタは素晴らしいのですが、厳密に言うとフランクはベルギー出身でフランスで活躍した作曲家です。ルーセル、プーランク、デュカスのことで話せることは何もありません。サティもジムノペディ第3番とジュ・トゥ・ヴーを知っていますが、メロディーはすぐに浮かびません。ベルリオーズは幻想交響曲、ビゼーは歌劇「カルメン」(歌劇「真珠採り」から「耳に残るは君の歌声」は好きですが)、フォーレはレクイエム(小品「エレジー」「パヴァーヌ」「夢のあとで」は好きですが)くらいでしょうか」
「ホンナラ、ドビュッシー、ラヴェルトサン=サーンスガエエンヤネ。ドビュッシーカラオシエテ」
「私が初めてドビュッシーの音楽に接したのは冨田勲さんです。アラベスク第1番、「月の光」「亜麻色の髪の乙女」はそれまで聞いたことがなかったシンセサイザーの音の魅力の相乗効果もあって、神秘的でした。それから数年してベネデッティ=ミケランジェリの前奏曲集第1巻を聞いたのですが、これもピアノの音が神秘的で魅せられました。私はドビュッシーのピアノ音楽にのめり込みたかったのですが、まずは管弦楽曲を聞こうと「海」「夜想曲」「牧神の午後への前奏曲」を聞いてみたのですが、交響曲のようにどこかで盛り上がりを見せるというものでなかったので肩透かしを喰ったような気になりました。数あるピアノ曲集もすべてが面白いというわけでなく、期待外れの中途半端な曲がたくさんありました。そんなことがあって「月の光」「亜麻色の髪の乙女」など5分程の曲を聞ためだけにわざわざレコードやCDを取り出すのが面倒くさくなったのです。それで今では年に1回、ミケランジェリのドビュッシーの前奏曲集第1巻を聞くくらいになったのです。30分から50分位の曲を一気に聞く(アナログレコードの片面か両面)のが習慣になっていたので、ドビュッシーのレコード、CDは中途半端で聞きにくかったのです」
「ホタラ、ラヴェルモオンナジナンカナ」
「そうですね、一時クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団のバレエ音楽「ダフニスとクロエ」を全曲聞いていたことがありますが、今は「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「ボレロ」くらいでしょうか。ラヴェルは管弦楽法を確立したと言われますが、メロディはそれほどいいのがないと思います」
「サン=サーンスハドウヤネン」
「交響曲第3番「オルガン付き」とヴァイオリン協奏曲第3番と序奏とロンド・カプリチオーソは美しいメロディに溢れていて好きな曲です。でも他は、歌劇「サムソンとデリラ」をはじめいいものがありません。ルービンシュタインの愛奏曲ピアノ協奏曲第2番も聞いてみましたが名曲の名演というものではなかったです」
「モーツァルトヤベートーヴェンヤブラームスノオンガクヲキイテイタラ、タトエバドビュッシーノ「海」ヲキイタラ、ドコガエエノントナルノヤロ。ソレカラピアノキョクシュウモ「前奏曲集第1巻」クライシカナイカラ、ホカノサッキョクカノレコードヲキコカナトナルンヤ」
「それでも「月の光」や「亜麻色の髪の乙女」は曲の内容もタイトルも素晴らしいから短くっても聞いてしばらくは幸福な気分になれます」
「ホンマヤ、コノ2キョクダケハソウイウカケガエノナイメイキョクナンヤトオモウヨ ホンマ」