プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編8」
福居は半年に1回、神戸に出て阪急三ノ宮駅から10分程歩いたところにあるラーメンたろうでライスにキムチをてんこ盛りにして食べたくなる。もともと福居は辛いのが苦手で辛いだけのキムチは食べたいと思わないが、たろうのキムチはかつおだし?が効いていて風味がありご飯のお供に最適だと思っている。またいつも一緒に注文するたろちゃんラーメンもトッピングされている味付けタマゴ、チャーシュー、海苔が美味しくこってりラーメンとよく合った。以前は元町の中古レコード街に行く前にラーメンたろうで腹ごしらえをしたものだったが、30年近く経つと中古レコード店の方は移転したり廃業したりする店が出て来た。それでも依然続けている店はあったが、盛時のように聴いてみたくなる新しい?中古レコードが入荷することはほとんどなく前回来て購入するか迷った同じレコードをまた手に取って購入するかどうか悩むということがいつものことになった。福居が三ノ宮駅を出て広い通りを渡ろうと信号待ちしていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「タロウハナニガウマインヤ」
「一番美味しいのはキムチですが、ラーメンやサイドメニュー(丼、餃子)なども美味しいですよ。ぼくは一時ラーメンをやめたのですが、やめてから3年目に彦根で野菜ラーメンを食べ、その翌月にここでキムチとライスとたろちゃんラーメンを食べて、まあ半年に一度ならいいかと思ってまたラーメンを食べるようになりました。ここは餃子も美味しいですし」
「アンタナニチュウモンスルノン」
「いつも同じです。キムチ、ライス、大盛りたろちゃんらーめんです」
「ホナ、ワシモソレニショ。ウーン、ホンマヤネ、ココノキムチハカクベツヤワ。ライスノウエニノセテ、ウーン、コレハヤミツキニナルネ」
福居があんぐりと口を開けて見ていると、宇宙人はライスを10回お代わりした。
「ラーメンも美味しいですから、食べてみてください」
「デモコレダケキムチガオイシカッタラ、焼豚丼、餃子ハムリニタベンデモ」
「たろちゃんらーめんもトマトラーメンもお勧めです」
「ソウカ、ソシタラボツボツラーメンモイタダクケド、アンタハクラシックノハナシヲシテチョウダイ」
「それじゃあ、今日はグリーグにしましょう。よろしいですか」
「アノ、ピアノキョウソウキョクデユウメイナヒトヤネ」
「そうです、ピアノ協奏曲と「ペール・ギュント」組曲が有名ですが、他にもいくつか心に沁みる名曲があります」
「ワシハえみーる・ぎれりすの抒情小曲集のカセットテープヲヨウキイタヨ」
「そうですね、私もそのディスクは大好きです。他にも、3曲のヴァイオリン・ソナタがあります。エルマンは第1番と第3番だけですが」
「アンタ、ダレノディスクヲキイテイルノ」
「弦楽四重奏盤のバッハのゴールドベルク変奏曲で有名なドミトリー・シトコヴェツキーです」
「しとこゔぇつきーデッカ、シランナァ」
「ほらほら、ブルーノ・カニーノとオルフェオ・レーベルにクライスラーの小品集を残している...」
「キイタコトナイナア」
「そうですか、一時ぼくはオルフェオ・レーベルのCDばかりを買っている時期がありましたが、あまりメジャーではなかったんですね。でもお母さんのベラ・ダヴィドヴィッチと共演したグリーグのヴァイオリン・ソナタ全曲は素晴らしい演奏でよく聴きました」
「アンタダケノメイバントイウノカシラ」
「そうかもしれませんね。ネットで見てもほとんど売買されていないようですし。でもぼくには大切なCDです」
「グリーグニハココロニシミル管弦楽曲ガアルネ」
「「2つの悲しい旋律」のことですね。「傷ついた心」と「春」2曲で構成されていてどちらも心に残るメロディです。「ペール・ギュント」のいくつかの曲の美しいメロディやこの2曲を聞くとグリーグはメロディ・メーカーでよく調べれば、モーツァルトやショパンのようにたくさんの美しいメロディの楽曲を見つけるのも可能ではないかと思います」
「デモ、セイヨウオンガクノチュウシンハドイツ、フランス、イタリア、イギリスヤカラネ。ノルウェートイウトチョットツライカナ」
「それでもピアノ協奏曲と「ペール・ギュント」組曲は名曲です。...そうだ、ひとつだけグリーグのことで言っておきたいことがあるんです」
「ディーリアストノユウジョウノコトカナ」
「そうです、同じノルウェーの作曲家シンディングと共にディーリアスを支えたんです。彼の励ましがあったからこそ、今こうしてディーリアスの美しい管弦楽曲が聞けるのです。日本ではフィンランドほどノルウェーに興味を持たれていない気がします。グリーグもシベリウスと同じくらい取り上げられたらいいのになあと思います」
「ソウヤネ、「ペール・ギュント」カラ「アサ」「ソレベイグノウタ」クライシカキカヘンカラネ。ピアノキョウソウキョクモアンマリエンソウカイデヤラヘンシ」
「まずは叙情小曲集をメジューエワで聴いてみようと思っています」