プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編10」
福居は長年吹田にある医療機関で働いていたが、昨年7月に退職した。それ以後、吹田市内に足を入れたことはなかったが、JR吹田駅ビル地下の食堂街にある珉珉の餃子とジンギスカン定食が食べたくなり、1年ぶりにJRで吹田に出た。中央口を出て駅前広場の〇クドナルドの前辺りを歩いていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ミンミンハナニガウマインヤ」
「ああ、谷さん。ぼくはここのジンギスカン定食と餃子くらいしか食べないんです。ジンギスカン定食はここが一番だと思っていますし、餃子も美味しいです。あとは中華飯とチャンポン麺を食べたくらいでしょうか」
「マズハソノジンギスカンテイショクトギョウザヲタベテカラヒトトオリイタダクコトニスルワ。ホテカラ、キョウモクラシックノハナシヲシテオクレ」
「いいですよ、今日はチャイコフスキーにしようかと思うんですがいかがでしょう」
「スキニシテ。ソレカラゴニングミハムソルグスキーノテンランカイノエ、リムスキー=コルサコフノシェエラザード、ボロディンノゲンガクシジュウソウキョクダイ2バン「ノクターン」ダケデジュウブンヤカラ、ホカノカイセツハイラヘン」
「それじゃあ、チャイコフスキーの楽曲だけを取り上げましょう。谷さんはチャイコフスキーと言えばこれだという曲はありますか」
「ワシハアンダンテ・カンタービレノガクショウガアル、コウキョウキョクダイ5バントゲンガクシジュウソウキョクダイ1バンガスキヤ」
「そうですね、交響曲第5番の第2楽章もアンダンテ・カンタービレの美しい曲ですね。チャイコフスキーと言えば、「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」の三大バレエが有名ですが、インストゥルメンタル曲を中心に聞く人にとってはオペラやオペレッタと同様に音楽は付随したもので、メインは歌手やダンサーという気がします。ですが、「くるみ割り人形」は管弦楽曲としても素晴らしくて終曲の「花のワルツ」はいつ聴いても楽しい気分になります」
「コウキョウキョクガエエンヤロ」
「交響曲第4番、第5番、第6番「悲愴」はそれぞれ特徴があって、チャイコフスキーの管弦楽技法の素晴らしさを味わえる名曲だと思います。若い頃に作曲した交響曲第1番「冬の日の幻想」も美しいメロディに溢れていて一度聞いただけで好きになると思います」
「チャイコフスキートイエバピアノキョウソウキョクヤトオモウンヤケド、アンタドウオモウ」
「実は私はクラシックを聴き始めた頃は、モーツァルトとチャイコフスキーは好きではありませんでした。モーツァルトはベートーヴェンほど心を動かす音楽でないと音楽の教科書に書かれていたからで、鵜呑みにした私は長い間モーツァルトの音楽を遠ざけていました。確かにベートーヴェン程ではないのかもしれませんが、充分に心を動かすことができる音楽なのです。ピアノ協奏曲第24番や弦楽五重奏曲第4番などを聞くと誰もが心を動かされるでしょう。チャイコフスキーもこのピアノ協奏曲が浮かれた感じで好きでなく、大学2回生まではほとんどチャイコフスキーを聞かなかったのです」
「2ネンノトキニキッカケガアッタンヤネ」
「クラスメイトの友人でオーディオマニアの人がいてその人の下宿を訪問したのですが、その時に友人の友人が掛けてくれたのが、スヴェトラーノフ指揮のチャイコフスキーの幻想序曲「テンペスト」だったのです」
「シランキョクヤケド、ヨカッタンカ」
「ぼくもその時に初めて聞いたのですが、荒々しい部分が続き、途中から甘い旋律が流れ出し最後にはその旋律がすべてを包み込んでしまうというイメージで、これがもしかしたらチャイコフスキーの魅力じゃないのかと思ったんです。それからチャイコフスキーの交響曲をすべて聞いて、第1番が好きになったのです」
「ピアノキョウソウキョクハイマモキカンノカ」
「ほとんど聞きません。やっぱり、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、第3番、モーツァルト、ベートーヴェンのピアノ協奏曲に比べると完成度は高くないと思います」
「ヴァイオリンキョウソウキョクノホウハドウナン」
「少し短い気もしますが、スリリングで甘くせつない名曲だと思います。変な表現かもしれませんが、ピアノ協奏曲は力みすぎなやぼったい男性、ヴァイオリン協奏曲はしなやかで活発な洗練された女性を思い描きます」
「ホカニハナイカ」
「弦楽セレナード、スラヴ行進曲、幻想序曲「ロメオとジュリエット」、序曲「1812年」、ロココ風の主題による変奏曲と、ここに挙げた5曲を見ると高級オーディオでソファに深く腰を下ろして寛いで聴いてみたい曲ばかりです」
「タシカニチャイコフスキーハエエオトデキイタイトオモウネ」