プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編11」

福居が中学生の頃は飲食チェーンというものはほとんどなく、〇クドナルドも餃子の〇将も少ししか店舗がなかった。また福居にとってハンバーガーは充分お腹を満たしてくれるものでなく、〇将で餃子だけを注文する勇気はなかった。そんな福居に丁度良かったのが阪急電車の駅構内にある阪急そばだった。福居は中学生の頃に阪急豊津駅にある阪急そばに友人に誘われて入ったのが最初だったと記憶しているが、たぬきそば(大阪ではうすアゲの甘辛煮を乗せたそばをこう呼ぶ)のとりこになり、当時阪急茨木市駅近くにあった親戚の家に行った帰りにもらったお小遣いで食べていた。お金が足りない時はかけそばを食べたり天ぷらそばを食べることもあったが、どれよりもたぬきそばが美味しかった。阪急そばは4年くらい前に姿を消し、今では若菜そばという店が阪急電車の駅構内にあるが、出汁が美味しくなって麺が細くなったそばは阪急そばとはまったく別のものと福居は認識している。それでも阪急電車に乗っていて小腹が空くと、福居は今でもそばが食べたくなり若菜そばを利用する。若菜そばの店内に入り食券を買っていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「きつねそば(たぬきそば)が一番のお勧めですが、谷さんの場合、そばを100杯は食べないと満足されないでしょう。他にはカレーうどんがお勧めですが、2種類のつけ麺も美味しそうです。サイドメニューのかつ丼、親子丼も美味しいですよ」
「ホタラ、ジュンバンニタベテイクカラ、クラシックノハナシヲシテチョウダイ」
「いいですよ、今日はシベリウスについてお話ししましょう」
「エエケド、シベリウスヤッタラ、ハナスコトガアマリナイントチャウ」
「そうですね、交響曲7曲、管弦楽曲、ヴァイオリン協奏曲、小品「悲しきワルツ」くらいでしょうか」
「シカモ、コウキョクキョク、ダイ3バン、ダイ4バン、ダイ6バンハナンベンキイテモヨウワカラン」
「逆に1、2、5、7は素晴らしい交響曲と言えます」
「ダイ2バンハタシカニエエケドナア」
「シベリウスの交響曲は厳しいフィンランドの自然を描いたとよく言われますが、1、2、5、7の交響曲にはそれを彷彿とさせるところがたくさんあります。金管楽器の咆哮、ティンパニーの連打を効果的に使ってフィンランドの厳しい自然を表現し、弦楽合奏は様々な波を連想させます」
「カンゲンガクキョクハナニガエエノン」
「出世作の「フィンランディア」は交響曲第1番と第2番の間(1899年)に作曲された曲でこの頃が彼の作曲家人生の頂点と言えます。でも第3番の交響曲を作曲したあたり(1907年)から心を動かす作品が姿を消します。有名な「カレリア組曲」は1893年、「トゥオネラの白鳥」(「レンミンカイネン組曲」から)は1890年代初頭)、「悲しきワルツ」(「クオレマ」付随音楽)は1903年にそれぞれ作曲しています」
「ヴァイオリンキョウソウキョクハイツナン」
「1904年の初演です。初演は不評でしたがその後高い評価を受け、現在はヴァイオリニストの貴重なレパートリーになっています」
「ダイ3バンガフヒョウダッタンデジシンナクシタンカナ」
「そうかもしれません。シベリウスは決してメロディメーカーではなかったので楽器の音の重ね合わせの妙が売りだったと思うのですが、それも限界がありますしやはりメロディが伴わないと後世に残る名曲にはなりにくいと思います。その結果、交響曲第5番(1915年)と交響曲第7番(1924年)でちょびっと話題に上がっただけで、事実上の引退をしてしまいます。1957年に亡くなるまでほとんど脚光を浴びることもなく」
「デモ、フィンランディア、コウキョウキョクダイ2バン、ヴァイオリンキョウソウキョクハイマデモカガヤキガアル」
「3曲もあるんですから、評価してあげてもいいのかもしれませんね」