プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編13」
福居は20年程前に阪急百貨店地下食品街にあるトップスのチョコレートケーキを食べて好きになり、2ヶ月に一度は買って帰って両親とよく食べた。チョコレートケーキも美味しいだけでなくチーズケーキや紅茶ケーキも美味しく気に入っていたが、余りに少量なので3人で分けるには小さすぎた(2人でも小さすぎた)。それで近くのケーキ屋さんで我慢することになったが、特にチョコレートケーキとチーズケーキは今でもトップスが一番美味しいと思っている。福居はネットで見て、トップスのチョコレートケーキが突然食べたくなった。暑い中、阪急電車で梅田に出た。福居がトップスの店の前で陳列棚を見ていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「アンサンガココデノカイモノガオワッタラ、トップスカフェニイカヘンカ」
「もちろん、いいですよ。でもここのケーキは高価ですから、お腹がふくらまないかもしれませんよ」
「タランブンハ、ミズヲノムカラエエノヨ。ソレヨリ、キョウモクラシックノハナシシテチョウダイ」
席に着くと、福居と宇宙人はケーキセットを注文した。
「谷さん、これじゃあ、とても足りないでしょう。デザートアソートの方が少しはお腹がふくれるかな」
「キニセンデエエノヨ。ショウリョウデモオイシイノハワカルカラ」
店員がケーキとコーヒーを配膳すると二人は早速、フォークでかき取ったケーキを口に入れた。
「ウーン、コノチーズケーキハカクベツヤネ。ホカノモオイシソウヤワ」
「気に入っていただけて、良かったです。今日は予告した通り、ブルックナーとマーラーの交響曲についてお話します」
「ベートーヴェンモドヴォルザークモブルックナーモサイゴノコウキョウキョクハ9バンヤネンケド、コノコトデマーラーハ9バンノサッキョクヲオクラセタトイワレテイル。ソコラアタリシリタイネンケド」
「仰る通りで、ベートーヴェンの最後の交響曲は第9番でその演奏会後3年程して亡くなっています。ドヴォルザークも第9番「新世界より」が最後の交響曲です。そしてブルックナーは交響曲第9番を作曲している頃に死の病に犯されて完成できずに3つの楽章の交響曲として演奏されています(第4楽章未完成)。同じ作曲家のマーラーがこのことを知っていて、第9番の交響曲の作曲について意識したということは考えられます。実際、マーラーが9番目に作曲した交響曲は交響曲第9番ではなく、交響曲「大地の歌」だったのです」
「デモ、ケッキョクヨクトシニダイ9バンヲサッキョクスルンヤネ」
「なぜマーラーが第9番と名のついた交響曲を作曲するようになったか、いろいろ葛藤があったと思われますが、そのあたりは不明です」
「ソウシテ、ダイ10バンノコウキョウキョクハミカンニオワッタ チャンチャン」
「ところでぼくはブルックナーとマーラーにどっぷり浸かったことがないので偉そうなことは言えません」
「デップリシテイルノニ、ナンデドップリデキヘンノ」
「そうですね、ぼくはブルックナーなら4と7と9、マーラーなら1と3と4と7と大地の歌なら楽しんで聞くことが出来るのですが、他は楽しめません。特にブルックナーの2、3、5、6なんかは何度聞いてもどこが聞きどころかわかりません。よい音楽はメロディ、ハーモニー、リズムが上手い具合に組み合わさって出来るのだと思いますが、ハーモニー、リズムに関して知識が乏しいぼくにはなじみやすいメロディが少ないブルックナーの音楽の良さが理解できないのかなと思うことがあります。でもたとえそう意識してもブルックナーの重厚な和音?が理解できて、ブルックナーが好きになるということはなさそうです。ファーストインプレッションが悪くても何度か聞いて行くうちに曲の良さが理解できることがあるのですが、ブルックナーの今までなじめなかった交響曲は何度聞いても印象は変わらない気がします」
「ソシタラ、ホカノンキイタホウガエエワ。レットウカンヲモツダケヤカラ」
「そうですね、ブルックナーの交響曲は全部聞く価値があると言われるんで、何度も挑戦してみるのですが、いつも理解できなくて劣等感を持ちます。ブルックナーはそんなところですが、マーラーの音楽になじめなかったのはオーディオ装置やオーディオルームによるものだと思います。オーディオルームがなく大音量で音楽を聞くことができなかったから(じっくり楽しめなかったから)好きになれなかったのかもしれませんが、仮にオーディオルームを入手できたとしても、今更マーラーの曲を楽しむために長時間オーディオルームに籠って大音量で音楽を聞くことはないと思いますので、マーラーの場合も今以上入れ込むことはないと思います。今ではマーラーはアバドの第3番をたまに楽しむだけでもいいんじゃないかとぼくはと思っています」
「ブルックナーモ7ヤ9ヲタマニキイタラエエントチャウカ」