プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編14」

中学生の頃の夏休み、福居は高校野球観戦によく行った。特に贔屓のチームがあるわけでなく特定の選手の応援はなく、ただ地元大阪や関西の高校を応援していた。野球に興味を持ち始めた頃で監督の采配(バント、スクイズ、盗塁、選手起用など)に興味があり、技巧派のピッチャーにも興味があった。その頃の夏の甲子園は今ほど暑くはなかったが、第1試合から夕方近くまで観戦して帰ると持って行った水筒も空になり阪神梅田駅に着く頃には冷たい飲み物が欲しくなった。福居がいつも甲子園帰りに寄ったのは阪神百貨店地下2階の食堂街にあったソフトクリーム屋さんで、一緒に売られていたソフトクリームは食べずにフローズンメロンかフローズンオレンジを食べた。ソフトクリームは口に含むと糖分が口の中がねちゃねちゃしたが、フローズンメロンはさっぱりしていてより清涼感があった。最初はフローズンメロンにソフトクリームが乗ったものを食べていたが、値段が安いこともありフローズンメロンだけを食べるようになった。夏に甲子園の高校野球観戦をすることは中学生の時で終わったが、フローズンソフトの店は大学生や社会人になっても年に1、2回訪れていた。しかし残念ながら今から30年くらい前に地下食堂街が改装された時にフローズンソフトの店はなくなってしまった。〇クドナルドで類似の商品が売られたが、ヨーグルトベースでねっとりしているので福居はフローズンメロンほど好きになれなかった。最近は大型商業施設のファストフードのコーナーに行くとソフトクリームと一緒にフローズンメロンが売られているのを見ることがあり福居は興味を持つが、フローズンメロンくださいという勇気がおこらずそのまま自動販売機で清涼飲料水を購入して飲んで誤魔化すのだった。今日も最高気温が38度の猛暑日だったので、JR茨木駅前のマイカル(イオンモール茨木)に入った福居は最初ソフトクリーム店を探したが、アイスクリームチェーン店やコーヒーチェーン店しか見つからず、腹ごしらえだけをすることにした。〇亀製麺の列に並んでいるとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハタコヤキモウドンモギュウドンモチャンポンモ〇クドナルドモアルカラエエネ」
「今から全部食べられるのですか。それより先にのどを潤したいと思いませんか」
「ワシハマエニニクタイロウドウヲシトッタカラ、モウショノナカデハタライタアトノツメタイミズガオイシイノハヨウシットルヨ。デモキョウハニクタイロウドウシテヘンカラ、クウフクヲミタスノガサキヤナ」
「何を食べられますか」
「ウドンガタベタイデス。ソレカラキョウモクラシックノハナシヲシテチョウダイ」
「わかりました。それでは今日はイギリスの作曲家の作品についてお話ししましょう。谷さんがイギリスの作曲家と言えば誰が浮かびますか」
「ホルストトエルガーカナ」
「ホルストは「惑星」、エルガーは「愛のあいさつ」「威風堂々第1番」が有名ですが、他の曲は余り耳にしません」
「エルガーノチェロキョウソウキョクハデュ=プレトバルビローリガキョウエンシタメイバンガアルヨ」
「確かにそれは名盤と言えますが、イギリスはドイツ、イタリア、フランスに比べると地味な作曲家が多く名曲も多いとは言えません。私が中学生の頃に音楽の授業で習ったイギリスの作曲家はベンジャミン・ブリテンで代表曲は「青少年のための管弦楽入門」だったのです」
「ナレーショナガツイテタリシテ、タノシイキョクヤネ」
「授業で一度は聞かれたと思います。管弦楽入門とありますが、最後は盛り上がって終わりますし私も彼の作品の中では一番好きです」
「ホカニハオランノカ」
「ヴォーン・ウィリアムズが有名ですがぼくは好きではありません。ぼくはイギリスの作曲家ではディーリアスが一番だと思うのです」
「ワシハ「アパラチア」ガスキヤネン」
「ぼくもそうなんですが、他に組曲「フロリダ」、「春初めてのカッコウを聞いて」「川の上の夏の夜」「楽園への道」などがあります」
「バルビローリトビーチャムノエンソウガエエネ」
「「アバラチア」はバルビローリが最晩年に素晴らしいレコードを残しています。組曲「フロリダ」はビーチャム盤につきます。「春初めてのカッコウを聞いて」は二人の聞き比べが楽しいですね。彼らのディーリアス作品集は一聴の価値ありです」
「ヘンデルモイギリスデカツヤクシタケド、ウマレガドイツヤカラハブイタンカ」
「ヘンデルはJ.S.バッハと同じ年に生まれた作曲家ですが、バッハのような落ち着いたイメージはなく、代表曲「メサイヤ」「水上の音楽」「王宮の花火の音楽」のようなぎらぎらしたイメージがあります。「オンブラ・マイ・フ」「調子のよい鍛冶屋」など皆に親しまれている曲もありますが、イギリスに帰化して長い間安定した地位に居て作曲を続けた割には名曲が少ない気がします。それに彼の作品はイギリス音楽ではなくイギリスで作られたドイツ音楽という気がします」
「カンタンニイウト、イギリスニハ3ダイBノヨウナオンガクカハオラントイウコトヤネ」