プチ小説「ラジオの効用」

「今度ボーナスが出たら何か買って上げるけど、何がいい。中学入学の時に何も買って
 あげられなかったから。服とか靴がいいかしら」
「ぼくはラジオがいいな」
「ラジオって、流行歌を聞くくらいなら、お父さんの携帯ラジオがあるじゃない。あれは二郎が
 生まれる前に買ったものだけど、今でもよく聞けるよ」
「今は、中波だけじゃなく、FMや短波が入るラジオじゃないと駄目なんだ。FMではクラシック音楽が
 たっぷり聴けるし、短波では外国の放送がよく聴ける。最近(註:昭和47、8年を想定して下さい)は、
 日本語放送もたくさんしているし、居ながらにして外国のホットな情報を得ることができるし、国内外を
 問わず放送局に受信報告をすると、ベリカードがもらえるんだ」
「そうかい、じゃあ、どのラジオにしようか」
「ワールドボーイかスカイセンサーがいいけど、1万5千円もするよ。いいの?」
「二郎がどうしても欲しいというのなら、なんとかするよ。でも大切に使うんだよ」
「うん」

「二郎、お前最近朝方までラジオを聴いていてたまに忍び笑いをしているようだけど、外国語放送やクラ
 シック音楽ってそんな時間じゃないと聴けないのかい」
「......」
「深夜放送ってのがあって、のめりこんだ学生が遅くまで起きていて、学校では居眠りしていると聞くけれど、
 二郎は...」
「......」
「やっぱりそうなのね。なにも全部がいけないって言う訳じゃないけど、8時間は睡眠が必要と言われている
 のに3〜5時間しか睡眠を取らないとお昼にしわ寄せが来るんじゃないかしら。友人との話題作りに必要
 なのかもしれないけど、ほどほどにね」
「ごめんなさい」
「なにも謝ることはないわ。でもね、娯楽を得るような放送を際限なく聞くより、クラシック音楽をじっくり
 聴く方がいいんじゃないかしら。また外国の情報をいち早く得て友人に話したら、友人に尊敬されるように
 なるかもよ」
「うん、よくわかったよ」