プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編18」

福居は百貨店の地下食堂街をうろうろして、少し高級感のある夕食のおかずを購入する(もちろん後で食べる)のを楽しみにしていた。以前は、梅田の阪急、阪神、大丸で惣菜や弁当を購入していたが、最近はJR高槻駅近くの松坂屋か阪急で購入することが多く、今日も松坂屋で晩御飯のおかずを探していた。「月のさば」でサバずしを、「ロイヤルチキンまるとく」で手羽先を、「551蓬莱」で豚まんを、「御座候」で太鼓まんじゅうを購入して「アイ・ダイニング」でローストビーフやサラダを購入するか悩んでいると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「ローストビーフ、鶏むね肉のステーキ、ハンバーグ、各種サラダどれもおいしいですよ。サラダは生ハムサラダ、サーモンサラダ、シーザーサラダ、コールスロー、ポテトサラダなどいろいろあります」
「ソシタラ、ゼンブ1キロズツチョウダイ」
「いろいろ買った方がいいですよ。蓬莱のぎょうざ、豚まん、シュウマイはよろしいですか。鯖寿司も美味しいですよ」
「ホウライノブタマンヲキノウヒャッコタベタカラ、キョウハデリカガエエトオモウタンヨ。トコロデキョウモクラシックノハナシヲキカセテクレマヘンカ」
「もちろん、いいですよ。前回、お話できなかったカラヤンのお話をしましょう」
「アンタ、ムカシハキライヤッタンヤロ」
「正直、あまりいいとは思いませんでした」
「ナンデヤノン」
「マイナー嗜好が当時の私の頭の中に蔓延っていたからです。これは判官贔屓的なところもあります。長嶋監督が最下位を経験して強くなり、巨人が川上監督と違った光(閃き野球)を放ち始め、常勝街道を驀進し始めた時になぜか他のチームを応援したくなり、ヤクルト、近鉄の俄かファンになったのがきっかけでした。その影響下、他のスポーツや芸術についても一番先頭を走っている人よりも2番手以降の人に興味を持つようになり応援したくなったのです。一番先頭を走っている人はそれ以上伸びないが、2番手以降はやがて一番を追い越して喜びを与えてくれると思い込んだんです。ですから一番がたくさん集う東京が好きになれず、30代半ばを過ぎるまではそれが続き、大阪に引きこもっていました。クラシック音楽にもそうゆう傾向があって、指揮者ではカラヤン、ベーム、カルロス・クライバー、ピアニストではホロヴィッツ、リヒテル、ポリーニ、アルゲリッチ、アシュケナージ、ヴァイオリンではムター、キョン・チョン・ファ、チェロではロストロポーヴィチなどはあまり聞きませんでした」
「グラモフォンノアーティストガオオカッタンヤネ」
「そんなぼくもカラヤンが1963年に録音したブラームスの交響曲第2番を聴いてよい印象を持ってからは、心を入れ替えてカラヤンのレコードを遠ざけるということがなくなり、他の指揮者と同様の扱い、つまり聞きたいレコードは取り敢えず聞いてみるというふうに方針転換しました。そうすると他の指揮者のレコードと比べるといろんな楽曲を録音していること、音が良いことなどが長所として浮かび上がってきました。古典派、ロマン派、後期ロマン派、バロック音楽など様々な時代の交響曲、管弦楽曲、協奏曲、歌劇、宗教曲、声楽曲などいろいろな形態の曲で常に高水準の演奏をしていることがわかってきました。つまり食わず嫌いだったことがわかりました。そう思った頃に新宿のディスクユニオンでカラヤンのグラモフォンの外国盤をたくさん購入でき、音の良いカラヤンの演奏を聞いてますますカラヤンが好きになりました」
「ヨウサンアルケド、ナニガエエノカナ」
「やはり交響曲に良いものが多いです。EMI盤ではモーツァルト後期交響曲集、シベリウス交響曲全集が優れています。グラモフォン盤ではチャイコフスキー交響曲全集、1963年頃に録音したブラームス交響曲全集がいいですね」
「ホカニモロマンハノコウキョウキョクノレコードデエエノガアルデショ」
「サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」、リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲などでしょうか」
「カンゲンガクハドウナン」
「やはり最初に思い浮かぶのは、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラストラはかく語り」でしょう。ホルストの組曲「惑星」それからビゼーやシベリウスやグリーグの管弦楽曲集、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」もいいですね。そうそうEMI盤のワーグナー管弦楽集は一時よく聞きました」
「キョウソウキョクハドナイデッカ」
「リヒテルと共演したチャイコフスキーのピアノ協奏曲とリパッティと共演したシューマンのピアノ協奏曲くらいでしょうか」
「オペラハヨウケアルントチャウ」
「ぼくは熱心なオペラファンでないので、あまりたくさんはあげられません。プッチーニの「トスカ」、ヴェルディの「ドン・カルロ」は面白かったですが後は...ワーグナーの「ニーベルングの指輪」やビゼーの「カルメン」、ヴェルディの「トロヴァトーレ」を一度聴いてみたいですね。声楽曲ではオラトリオの名盤(ハイドン「天地創造」など)があるようですが、まだ手つかずです」
「マタマダカラヤンノメイバンガアリソウヤネ。ガンバッテミツケテチョウダイ」
「そうですね、9月に東京に行くのでディスクユニオンでカラヤンの名盤探しをしたいですね」